短編

□足りない
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「おはよう、名無しさん」
「おはよう悟飯君、今日は早く起きたね」


朝6時半。
悟飯と名無しは席につくと、朝食を食べ始める。

「何だかお腹空いちゃって。それに、今日は学会があるんです」
「そうなんだ…学者の卵とはいえ、やっぱり忙しいんだね」


悟飯は少し顔を赤くしながら言った。


「お金を貯めたら、また名無しさんと遊園地にでも行きたいですね」
「はは、嬉しいけど、あんまり無理はしないでね」
「はい」


相変わらず朝でも悟飯の食欲は旺盛で、5分も経たないうちに、食べ終えてしまった。
名無しも慣れているつもりなのだがいつもこれにはびっくりだ。


「御馳走様。名無しさん、皿は僕が洗うから、ゆっくりしていてください」
「えっ、いいのに…学会があるんでしょ?いつもより早く出なくちゃいけないんじゃ…」
「いいんです、これくらい、僕にさせてください」


悟飯は空になった皿を重ね、箸を乗せるとキッチンまで持っていき、食器を洗い始めた。


「ありがとう」
「いえいえ」


名無しも朝食を食べ終えて悟飯の隣に立つと、自分の皿と箸を洗い始める。
皿をこするスポンジと、水の流れる音が聞こえ、心地いい。


「名無しさん」
「?」
「ふふっ」
「?何?」
「いえ…何でもありません」


綺麗になった皿を乾かし、布巾で拭いた後、
悟飯と名無しは歯を磨き髪を整え顔を洗い、着替えることにした。
悟飯は学会のために、きっちりとした服装を着なければならなかった。


「あっ、気がついたらもう7時だ」
「気づきませんでしたね、空気があまりにも和やかだったから」
「はは、そうだね」


パジャマを名無しに渡し、着替えた後、ファイルと鞄を持って靴を履き替えて、
ドアを開いて外へ出る前に、悟飯は名無しを呼び出す。


「それじゃ、行ってきます」
「気を付けてね」
「はい…んっ」


ちゅ、と名無しと唇を重ねる。
名無しとは必ずキスをしてから仕事に行く、それが二人のルールだった。
悟飯曰く、これをすれば仕事中やる気がなくなることもなく、元気とやる気をチャージできるらしい。


「…すみません、もう一回してもいいですか?」
「…うん、いいよ」


足りないな、と感じてしまった悟飯は、もう一度、名無しとキスを交わした。今度は長かった。
そして、そっと二人の唇が離れる。悟飯は頬を赤く染めて、恥ずかしそうにうつむく名無しに微笑みかけた。


「…名無しさん、今夜は覚悟してくださいね」
「も、もう、遅刻するよ!」
「ははっ、名無しさんったら可愛いですね!行ってきます!」


悟飯は意地悪そうな笑みを浮かべると、元気な声で外へ出ていくのであった。

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