短編

□イライラする
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「ふーん、それバーダックにもらったのか」
「はい」

酒をぐびっと飲み干した後、トーマが名無しの首につけてあるペンダントを見て言った。
名無しの右隣に居るセリパは頬杖をつきながら、

「あんた、ホントにバーダックと仲良いんだね」

と言った。彼女はもう大分酔っ払っているのかどこか口調が乱暴である。

「違うだろ、セリパ。仲が良いんじゃなくて、こいつら付き合ってんだよ」
「あっ、そっか、アハハハ」
「……駄目だコイツ、一体何杯飲んだんだよ……」

頬を真っ赤にして豪快に笑うセリパに、トーマは額に手を置いて呆れた声で言った。

「うっす……」
「あ、ようやく来た、遅いぞバーダック」
「悪い、フリーザ……サマに呼び出し食らってよ」
「ははっ、此処では無理にサマ付けしなくていいって」
「スカウターで聞かれてるかもしれねえだろ」
「そうかもな。あっ、名無しの隣が良いか?」
「……別に」

バーダックはそう言い捨てるとトーマの隣に座った。
そして彼は何となく、名無しの顔を見て、それから首を見た。

(……ちゃんと付けてんな)

ペンダントを見ると自然と微笑むのであった。

「……パンブーキンたちは?」
「用事があるってよ。……なあ名無し」
「あ、はい」
「お前ってさ、可愛いよな」
「へっ」

トーマは目を細めて名無しの髪に触れる。

「見てると何か、ちょっとドキッとする」
「え……あ、あの」

ちらりとバーダックを見ると、うわあ、物凄い不機嫌な顔をしている。
セリパはトーマが何か企んでいることに気づきやはり乱暴な口調で言う。

「あんた、バーダックに殺されたいのかい?」
「そんなわけじゃねえよ。な、名無し。お前モテるよな、絶対」
「い、いえ、そんな」

けっ、と唾を吐くような勢いで言うとバーダックは煙草を吸い始めた。

「おいバーダック、何怒ってるんだよ」
「……ウルセーほっとけ」
「ほっとけ、か。ははは」
「何笑ってんだよこの馬鹿トーマ!」
「うがっ!叩くなよ!」
「あんたが悪いんでしょ。要するにね、トーマは嫉妬させたかったんだよ、バーダック」
「……チッ」

トーマが満足そうに笑っているのでそれが余計にバーダックを苛立たせるのであった。
名無しは顔を赤くして俯いている。

(何だよ、ちょっと触られただけで、可愛いって言われただけで、あんなに嬉しそうにしやがって)

バーダックはふうと息を吐くとタバコを灰皿に押し付けた。
そして頬杖をついて名無しを見据える。

「あたしゃもう帰るよ。眠いし」
「ああ、待てよセリパ。俺も行く」
「早く帰れお前ら」
「はは、分かってますよ、じゃあな。二人とも」
「あ、さ、さようなら、トーマさん、セリパさん」

トーマとセリパが去った後、名無しは左を見た。バーダックと目が合った。
バーダックははあ、と大きなため息をつくと、席を立ち名無しの隣の席に移動した。

「何ニヤニヤしてんだよ」
「し、してませんよ!」
「チッ。褒められただけでそんなに嬉しいかよ」
「……バーダックさん、怒っているんですか?」
「ったりめーだダァホ!」
「ええっ!?」

怒鳴るような勢いで言われたものだから、名無しは眉を下げて困り果てた。

「テメーはチョロいんだよ、何なんだよ!可愛いって言われたらこれだ、テメーは女なのか?」
「お、女じゃありません!」
「アホ、バカ、マヌケ!」
「なっ、子供みたいなこと言わないでください!」
「あームカムカする。お前どれだけ俺を嫉妬させれば気が済むんだよ」
「えっ、嫉妬……?」
「あっ」

余計なことを言ってしまった、とバーダックは少し顔を引きつらせると、
ふんっと腕組みをしてそっぽを向いた。

「何でもねーよ!……俺はもう帰る!」
「ええっ、バーダックさん、お酒飲んでないですよ?」
「ウルセー!帰るって言ったら帰るんだ!」

酔っ払いのように吐き捨てると、椅子を倒す勢いで立ち上がり、
ずんずんと出口のほうへ向かっていく。名無しは少し苦笑して、彼に慌ててついていくのであった。

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