短編

□今更だけど大好きです
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「イデデデ!」
「うっせーなーちょっとは我慢しろよ」

怪我の治療というものを好きな人にしてもらうのは非常にうれしいことだが、
別にその人に治療してもらうからと言って痛みが吹っ飛ぶわけではない。
痛いの痛いの飛んでけとかいう魔法の言葉はもう今となっては魔法の言葉ではなく単にちょっと元気を出してくれるだけのものである。
後頭部を強打、左腕骨折、右脚麻痺。
メディカルマシーンで治すべきほどの大怪我である。

「大体、何でお前一人で行ったんだよ。惑星シャーツはベジータやナッパ、俺の3人でも1ヶ月は制圧完了にかかりそうなところだぞ」
「知らなかったんだ、惑星シャーツがそんなに強いところだなんて」
「んで全く敵わなかったから逃げてきたわけか」
「逃げたとは失礼な!ちょっと……油断しただけだい」

ミイラみたいに体中包帯を巻かれて名無しは己の姿にとても恥ずかしさを感じた。

「フリーザの命令を無視した罰なんじゃないのか」
「人のこと言えないと思うけど……」
「ウルサイ」
「イデッ!」

ラディッツに拳骨を食らわされ、名無しは叫びに近い大きな声をあげた。

「あー、お前今日、俺んちで泊まれよ」
「何で?」
「何でって……じゃあ聞くけど、お前、そんな状態で飯作れんのかよ。風呂とか、トイレとか」
「……」
「……まあそういうわけだ。それに今日は結構仕事から帰ってくるやつが多くて、メディカルマシーンが使えねえと思うし」
「……色々とスミマセン」
「別に。つかこういうこと前にもあった気がするし」
「おかん、ありがとう」
「誰がおかんだ」

確かにメディカルマシーンは全て今日帰ってきた戦士たちによって全て使用されており、
治療するのなら明日にしてくれと医者に言われるのであった。名無しはそんなわけで自称おかんのラディッツに連れられて彼の家へ向かった。

「着いたぞ」
「わー相変わらずラディの家は綺麗だね」
「まあ俺がこまめに掃除してるからな」

玄関に入ると、タオルを手に持ったびしょぬれのカカロットがトイレに向かおうとしていた。

「あっ、カカロット!ちゃんと頭拭け!垂れてるぞ!」
「あー兄ちゃんお帰りー」

カカロットの持っていたタオルを取ると、代わりに頭を拭いてやるラディッツの姿を見て、
名無しは微笑ましい光景を見たなあとにっこりと笑うのであった。

「……全く、後で床拭かないとな……」
「大変だね、ラディ」
「まーな……とりあえず、飯作るからリビング行こうぜ」

再びラディッツに支えられながら、リビングまで歩いていくと、
今度は煙草を吸いながらソファに寝転がるバーダックの姿が見えた。

「だーっ!!親父!煙草が床に落ちたらどうすんだ!家が燃えてもいいのか!」
「遅かったなーラディッツー腹減った」
「たまには自分で作れよっ!!」
「まあそうカッカすんな。よう名無し、どうしたんだその怪我」
「あ……えっと、ちょっとやらかしまして」
「聞いてんのかよ親父!」

そう言うとラディッツはバーダックが口にくわえている煙草を奪い取ると、灰皿に押し付け名無しを椅子に座らせた。

「……ラディ、毎日3人分の食事作ってるの?」
「ったりめーだ。親父もカカロットも作れねーからな」
「ああー一回目玉焼き作ったことはあるが、焦げちまった」
「あんな恐ろしいもん食えるわけねーだろ。ていうか目玉焼きじゃねえよアレ!」

ラディッツが食事の支度をしている間、名無しは彼の背中をじっと見据えていた。
カカロットがトイレを済ませたのかリビングに入ってきて、それから彼らと他愛のない会話を交わした。

「出来たぞー」
「おーっ美味そうだなー!」
「ありがとよ、ラディッツ」
「絶対感謝してないだろ」
「お、美味しそう……」

豪華な食事がテーブルの上に並び、名無しは感嘆の声を漏らした。
そして「いただきます」の揃わない掛け声とともにカカロットとバーダックは物凄い勢いで食事を頬張る。

「どうした、食えよ」
「あ、いや。美味しそうだから、食べるの勿体無いなって」
「食わふぇーなら、おへがふっひまうぞ」
「食べながら喋るな……」

口の中を食事でパンパンにしながらバーダックが言うものだから、ラディッツは呆れた顔で彼を見る。
カカロットなんか無言で、いつ飲み込んでいるのか分からないくらいにひたすら食べ続けている。

「おい、ちょっとは遠慮しろよ!名無しの分まで食べるつもりかお前ら!」
「わりぃわりぃ。あ、これお前の分な」

バーダックは野菜を山盛りに入れた皿を名無しの前に持ってくる。

「野菜だけかよ!……ホレ、これ唐揚げ。お前も結構腹減ってるだろ」
「う、うん……ありがとう」
「べ、別に。早く食っちまえ、なくなるぞ」

顔を赤くしたラディッツは、誤魔化すように、バーダックやカカロットと比べると全く少ない量の食事を口に入れた。
名無しはそんな照れ屋の彼が作ったとても美味しい食事を有難く完食するのであった。




夜の10時、カカロットが寝ると言い出し、そのままソファに寝転がって眠り始めてしまった。
バーダックはあくびをしながらテレビを見ている。
ようやく一息ついたラディッツは、名無しを風呂に入らせ、名無しの身体を代わりに洗った後、彼も風呂に入った。
そして風呂から上がるともうすでに30分も経っており、テレビを見ていたはずのバーダックまで床に転がって爆睡していた。

「部屋で寝ろって言ってるのに……」
「あはは」
「んー……しょうがないな、名無し、お前カカロットの部屋で寝ろ」
「えっ?いいのかな……」
「いいよ、別に。カカロットには親父の部屋で寝ろって伝えておくから」
「ありがとう……」
「だ、だから気にするなって。そんなにお礼言われたら、照れるだろ」
「でも、わざわざ美味しい食事まで作ってくれて、お風呂に入るのも手伝ってくれて……」

そう言いかけて、ラディッツにデコピンをかまされたので、名無しは「イテッ」と額を押さえた。

「……俺が他人に感謝されるのに弱いの、知ってるだろ」
「え?し、知らないけど……」
「……バーカ」
「んっ……」

ラディッツの唇が重なり、名無しは思わず目を瞑った。そしてじんわりと頬が熱くなっていく。
長いキスが終わると、彼も顔を真っ赤にしながら目を逸らす。

「……もう寝るぞ!お前もこいつら起こすの手伝え!」
「う、うん、あの、ラディ」
「何だよ!」
「今更だけど、大好きだよ」

恥ずかしくなったのか背を向けたラディッツは、ぴくりと動きを止め、ゆっくりと振り返る。

「お、俺だって大好きだっつの!」

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