短編
□空回り
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しんしんと銀色の粉が降り注ぐ中、ぼんやりと人影が見えた。
灰色の空に包まれたこの西の都は、ああ、どこか寂しいな。
やがて、歩いてくる人影がはっきりと見えるようになってきて、それが誰なのか深く考える必要性がなくなった。
「やあ、また会ったね」
いつも彼と会うのは「久しぶりだ」と感じるときばかり。
数ヶ月ごとくらいに会うペース、なのかもしれない。
「久しぶりですね」
彼の履いている灰色の長靴が地に着くたび、真っ白な雪に足跡がつく。
ああ、彼が首に巻いているマフラーは、俺があげたものじゃないか。
「また、背が伸びたんじゃない?」
他愛のない会話って、こういうことを言うのだろうか。
一つ年上である彼だが、もうすぐ俺は彼の身長を超えてしまう。
「寒いですね」
「そうだね」
あまりにも冷たい、頬や手に当たる、小さな数え切れないほどの粒。
今日ってこんなに寒かっただろうか。
「名無し、先輩」
「うん」
「……学校、どうですか?」
答えはもう分かっているはずなのに聞いてしまう。
いいや、今の俺にはそれくらいしか聞くことが出来ない。勇気がないからだ。
もっと色々、聞きたいのに、話をしたいのに、それなのに……。
「ぼちぼちかな」
笑うことしか、できなかった。
「ハハ、そうですか」
紫色の髪が視界に移り、遮る。目に入りそうで、痛い。
前髪、そろそろ切ったほうがいいな。
「名無し先輩」
「うん」
「好きです」
一瞬、いきなり強風が吹きつけ目の前が真っ白になった。
まるで俺の言葉を待っていたかのように。
思わず目を瞑り、数秒たって目を開けると、彼は泣いていた。
「トランクス君」
数ヶ月ぶりに、彼は俺の名を呼んでくれた。
けれど彼の、俺の名を呼ぶ声はいつもと違って悲しそうだった。
寒さの所為で、彼の頬は真っ赤であった。
「ごめんね」
ぶわりと再び強い風が俺たちを襲った。
真っ白な世界とともに視界が奪われて、よろめいた。
そして再び目を開けたときには、もう彼は居なかった。
「―――――――」
沈黙。
声にも出ない悲しみ。
「…ごめんね?」
謝罪の言葉、ごめんね。それが一体、何の意味を表しているのかだなんて、俺には分かるはずもなかった。
好きですだなんて、簡単でちっぽけな言葉だと思っていたけれど、それは違ったみたいだ。
空回り。
何でも思い通りになんて、出来るわけないのにな。
俺って甘くて、ちっぽけで、馬鹿なヤツ。
また今度、もう一度俺は、彼に告白する。