短編

□親友(仮)
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「ごめん!遅れた!」
「……この俺を待たせるとはいい度胸だな」
「ご、ごめんってば……」

バス停前で待ち合わせをすることになっていたベジータと名無し。
予定時刻よりも10分遅れてやってきた名無しはベジータに早速睨まれた。

「まあ今日の俺は機嫌がいい。許してやろう」
「ど、どうも……。あ、バス来た!あぶなかったぁ……もうちょっと遅れてたら大変なことになってたかも」

これから二人は出かけるのだが、決してこれは「デート」なんかではなかった。




「おい、何だ此処は。これが貴様の言っていた「げーむせんたー」か?」
「うん」
「……こんなくだらん遊びに俺の貴重な時間を「わかったわかった後で美味しい店連れてってあげるから!」……チッ、しょうがないな」
「ええと、じゃあ何で遊ぼうか?」
「知らん。つまらんものはお断りだぞ」
「じゃあ対戦格闘ゲームしようよ」
「まあいいだろう」

(ホントに機嫌いいな、どうしたんだろう)

親友(名無しがそう思い込んでいるだけ)であるベジータは、いつもぶっきらぼうで無愛想でプライドが高い王子様だ。
だが時折見せる優しさは名無しを何度も救ってきた。
そんなベジータだが、ただ素直じゃないだけであって、実は名無しに好意を寄せている。
けれど、1ヶ月前ほど、名無しはベジータにこう告げた。
自分には、好きな人が居るのだと。
それが自分ではないことを知ったベジータは、自分でもヘンだと思うことを口走ってしまった。

『応援してやらんこともない』
『一応相談話は聞いてやろう』

(今更だが……本当に俺は、何を言っているんだろうな)

馬鹿みたいな話だ。
振り向かせてやると思っているくせに、心のどこかではそれを恐れている。
結局自分自身を拒否して、嘘をついてしまったのだ。

「げげっ、また負けた!」
「ふん、弱いな」
「はぁ〜……じゃああと一回だけ!」

悔しそうな表情をする名無しには、ベジータの気持ちなど分かるはずもなかった。




「あっ、ねえベジータ!最後にあれやってもいいかな」
「何だ」
「UFOキャッチャー」
「ゆーふぉー……きゃっちゃー?……まあいい」
「ありがと!」

(……もうこんな時間か)

ふと腕時計を見てみると、針は午後4時を指していた。
名無しと過ごしていると、随分時間が過ぎるのが早い気がすると、ベジータはどこか寂しげな表情を浮かべた。

「……ん〜……」
「おい、どうした」
「あれ、どうしても取れなくて……」
「……」

名無しが指を指す先には、綺麗な宝石があった。

「あれか……」
「取るのはすっごく難しいけど……どうしても取りたいんだ」
「そんなに欲しいのか?」
「うん。プレゼント用に」
「……ああ。奴に渡すためか」

(そんなに手に入れたいのか……ヤツのために)

もやもやしたような気分になって、ベジータは眉をひそめた。
でも、横を見ると困ったような顔をした名無しと目が合う。
それを見ると、何だか苦しくなって、ベジータは苦し紛れに口を開いた。

「……俺が、取ってやる」
「えっ……」
「だから、そんな顔するな」
「あ、ありがとう」

ベジータの手に握られた100円玉は汗でにじんでいた。






「ベジータ、ホントにありがとう!」
「ふん、この俺に出来ないことなどない」
「えへへ、嬉しいなあ」

にこにこ笑いながら、手に入れた宝石を大事そうに持つ名無しを見て、
役に立てたことの嬉しさと、まだ心の隅に残ったもやもやした気分にベジータは悩まされた。

「じゃあ、またね」
「……ああ」

お互い背を向け家へ戻ろうとしていたとき、名無しはベジータに声をかけた。

「ベジータ!」
「……なんだ?」
「また、どこか行こうね!」
「……ああ」

名無しはいつものように、優しく笑っていた。

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