短編

□傘
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止みそうもない雨の中、
ブロリーはただ一人、草原の真ん中で立っていた。
びしょ濡れになっていることに気づいているのかいないのか、
彼は一人の青年を待っていた。
その青年は、いつも自分の傍にいてとても楽しそうに、それに嬉しそうに話しかけてくる。
そんな彼と居て大分年月が経ったが、
自分にとって彼はどんな存在なのかまだ分からない。
だが、彼が自分の傍にいるとどこか気分が落ち着くのはわかる。
そんな彼の名前は、名無し。

いつもならもうやって来てもいい時間だが、
今日は何故かなかなかやってこない。
遠くで空が光った。ブロリーには遠い何処かで雷が落ちたことがわからない。
空が光ったことを不審にも思わない。
ただ、名無しただ一人を待っているだけだ。

そしてさらに雨が激しくなってきた。風も強く吹き付けてくる。
黒髪が激しく左右に揺れて草も同時に激しく動いた。
そして、そんな時に、

「ブロリー!」

彼はやって来た。

「……」

傘を差した名無しはびしょ濡れのブロリーを見て、
悲しそうな表情を浮かべた。

「もう……風邪引いちゃうよ!」
「……お前……来るのが、遅い」
「えっ?」
「……俺は、ずっと待っていた。此処で」
「……あ……」

名無しは今度はふっと緩んだ笑みを浮かべた。
ブロリーが濡れないように傘を差し出し、
持ってきたタオルで彼の濡れた髪を拭いてあげた。

「ずっと待っててくれたんだね。ありがとう」
「……」
「でも、こんな天気の悪い日は、外に出ちゃ駄目だよ」
「……何故だ?」
「風邪引いちゃうから。
いくら頑丈なブロリーでも、風邪には負けちゃうからね!わかった?」
「……わかった」
「うん。実は、パラガスさんからブロリーが外に出てから帰ってこなくなったって
聞いたから、もしかしてと思って此処までやってきたんだ」
「……そうか」

名無しはブロリーの髪を撫でると照れながら笑った。

「ほら、帰ろう?」
「……ああ」

手を差し出され、何となくぎゅっと握った。
自分の手よりもずっと小さい名無しの手を見つめていると、名無しに様子を伺われた。

「どうかした?」
「……お前は、大事な存在だ」
「……へっ?」
「……俺がお前を守る」
「えっ、あ、あの」

名無しは頬を真っ赤に染めると、混乱し始めた。

「ぶ、ぶ、ブロリー、あの、あの、それは」
「……?」
「う、ううん、何でもない!か、風邪引いちゃうから、早く帰ろ!」
「……ああ……」

その日名無しは、夜眠れなかったそうだ。

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