短編2

□電話
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悟空とは恋人だけれどお互い遠距離恋愛をしている。
俺は仕事のせいで都を出なければならなかった……。
それでも、滅多に電話できない。仕事で忙しいし、帰ってくるのは遅いから結局電話しても彼はもう寝ているだろう。
今日は珍しく早く仕事が終わったので、電話した。
緊張しているせいで、じんわりと手に汗が浮かび上がってくるのがわかった。

「……もしもし」
『おう、名無しか』
「……元気か?」
『ははは、オラは元気だぞ』

悟空の笑い声を聞くと、何でかわからないけれど、うれしくなった。
ああ、懐かしい声。
この声を、俺はずっと聞きたかった。
明るくて、元気で、どこか安心する、そんな声だ。

「今日は、何してたんだ?」
『んー、修行だな』

何故か、こんなつまらないことを聞いてしまう。
どう話せばわからないのだ。
長い間、彼と離れているからか、それで、一人でいることに慣れてしまったからなのか。

『なあ』

考え事をしていたら、急に話しかけられて、俺は我に返る。

「なに?」
『名無しはいつ帰ってくるんだ?』

ああ、やっぱり。聞いてくるだろうと思っていた。
予測はしていたのに、それなのに、浮かんでくる答えは一つだけ。

「……分からない」
『……おめぇ、疲れてねえか?』

妙に弱々しい声だったから、俺は思わず苦笑して、拒否した。

「そんなことないよ」
『声聞けば分かる。弱々しい声だ』

その言葉を聞くと、なんだか突然、申し訳ない気持ちになった。
悟空は心配してくれているようだ。こんな俺を。
突然仕事でここを離れると言って、家を出て行った、最低な俺を。

「……。悟空、ごめんよ」
『?なんで謝んだ?』
「しばらくは会えそうにない」

俺は思った。
悟空はこんな奴と付き合っていて嫌な気分にならないのかと。
だから、思い切って尋ねたんだ。


「なあ悟空、俺と付き合ってて後悔しないか?」

悟空は、即答した。

『嫌じゃねえよ』

俺は、その言葉に感謝した。そして、泣きそうになった。
ふんわりと優しく、その言葉に包まれるように感じて、あたたかい気持ちになった。

「……本当か?」
『オラは嘘なんてつかねえよ。名無しはどうなんだ?』
「俺も嫌じゃないよ」
『はははっ、オラ嬉しいぞ。ありがとな』
「何でお礼言うんだよ」

悟空は変わっていない。そこに安心し、
何故か感謝する彼に笑ってしまった。感謝するのはコッチのほうなのに。

『名無しに会いてぇなあ』
「俺も会いたい」
『オラ待ってるぞ』
「うん。早く帰れるよう頑張るよ」
『でもあんま無理すんなよ!』
「うん」

悟空の声を聞くと、安心するのはやっぱり
悟空が恋人だからなんだと実感した。

「ありがとう。……そろそろ切るね」
『おう、またな!名無し。いつでも電話しろよ』
「そうするよ。じゃ」

俺はそっとプチ、と電話の電源を切った。
それでもまだ悟空の声が耳の中にじいんと残っていて、
俺は何となく微笑んだ。

また、明日から、頑張れそうな気がした。

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