短編2

□天使のあなた
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「名無し……すまねぇな、後は頼んだぞ」
「ご……悟空!待って!」

自爆しようとするセルの体に触れて額に指を当てる悟空。
俺はその時、何も考えられなくなって、頭が真っ白になって……。
ただ愛する人が死んでしまうのだという恐怖感だけが俺の中にあった。
金色の戦士は、どこか悲しそうに微笑み、俺の制止を振り切るようにして背中を見せると消えてしまった。
その日、俺は愛する人を亡くしてしまった。





何もかもしたくなくなった俺はそれからずっと家に引きこもっていた。
悟空が居ないのに生きていく意味なんてない。でも……彼は姿を消す前に、俺に言っていた。

『しばらく、オラを生き返らせないでくれ』
『オラが居ない方が、地球は平和になる気がするんだ』

そんなことない。行かないで。死んじゃいやだよ。あの時、とにかく必死に俺は彼を止めていた。
そして、一人になった俺は気がつけば泣くことが多くなった。
泣いちゃ駄目なことくらいわかっている。だけど、悟空が居ないのにどうやって今までのように過ごせるのだろうか。
俺には悟空が居ないとダメなんだ。一人じゃダメなんだ。

「……ぐす、うぅ……ひぐっ」

ぽろぽろと流れていく涙を手で拭っても拭っても、止まる気配はない。

「……名無し」
「…………え…………?」

ふと聞き慣れた声が近くで聞こえた。
思わず顔を上げると、俺の愛する人がそこにはいた。
天使の輪っかに大きな翼が生えていて彼の姿は天使そのものだった。

「どうしたんだ?何で泣いてんだ?」
「あ……ご……悟空……?」
「オラ以外に誰がいるんだよ」

幻覚、なのかな……。目をごしごし擦ってみるが、目の前の光景は変わらない。
夢か幻かは分からないけど、でも悟空の姿を見れて良かった。……また涙がぶわっと溢れ出した。

「悟空……ごめん、ね、こんな俺で」
「何で謝るんだよ、名無し」

俺は悟空に抱きついていた。
すると悟空の手が伸びて、俺の背中に触れる。

「……はは、おめぇから抱きついてくるなんて珍しいな」
「ごめん……今だけでいいから……」

髪を撫でられ、俺は彼と共に過ごした時間を思いだしどこか幸せな気分に浸った。

「名無し」
「……なに?」
「オラが傍にいるから、もう泣くな」
「悟空……」
「オラはずっと、あの世からおめぇを見てる。……泣いてるおめぇはもう見たくねえんだ。だから泣くな」
「うん……そう、だね……ごめんね……」

俺は悟空と一緒に居ることが当たり前になっていたから、独りになることなんて考えていなかった。
だから俺はこんなことになるなんて考えていなかったからこんなにも寂しくてどうにかなりそうだったんだ。
するとまるで心を読んだかのように悟空が言った。

「……オラも気づけば、おめぇが傍にいることが当たり前になってたぞ」
「!」
「おめぇと離れて、初めてオラは寂しいって感じまった。……そう感じるくらいにオラは、本当におめぇを愛してんだなって思った」
「……っ、あ……」
「おめぇもオラと離れて、寂しいって、感じたか?」
「うん……」
「そっか。……すまねえな」
「ううん、いいんだ、……いいんだよ」

悟空が苦しいと感じるくらいに力を入れて、強く俺を抱き締める。
傍に居たくて触れたくて仕方がない。悟空もそう感じているのかな……?

「……ずっとこうしていてえけど、そろそろお別れだな」
「……うん。そっか……」
「名無し、好きだぞ」
「あり、がとう……俺も、好き」
「……ああ。……また会おうな」
「……うん……また、ね」

今度は、いつ会えるの?……いつ、生き返って、俺の元に戻ってきてくれるの?
……聞きたいことが山ほどあったけど、それらを聞く前に、悟空は消えてしまっていた。

「……あれ?」

ふと地面に目を向けた。
床に羽根が落ちている。俺はそっとその羽根を拾った。真っ白で、ふわふわしている。
そこで俺は、夢でも幻でもなかったことに、今更気づいてしまった。

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