短編2

□記憶
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「……」
「心配するな。何ともない」
「……」

ブラックは起き上がり、名無しの頬に手を添えた。

「そろそろ口を開いたらどうだ?」
「……」
「私はお前の声が聞きたい。……孫悟空と共に居た頃の、お前の気高くも美しい声を」
「……そん……ごくう……」
「ん?」

名無しは虚ろな目でブラックを見つめる。
頬に添えられたブラックの手にそっと触れた。

「そんごくうって……だれ?」
「……っふ、ははははは!気にせずともよい。
……相変わらずお前の声は美しいな。お前の顔と、姿と、心同様に……」

あれだけ愛し合っていたのにも関わらず、記憶を消してしまっては愛人の名を聞いても首を傾げるだけ。
そして今やこの人間は倒したかったはずであり、憎んでいたはずの敵と愛し合っているのだ。
ブラックにはそれが心地よくてたまらない。
だが今の名無しには、何かが足りなかった。
ブラックはその「足りないもの」に気づくと名無しの手をとり立ち上がった。

「今のお前は、まるで人形のようだな」
「……」
「そんなお前も私の好みだが、お前の取り柄である明るい性格が消えてしまっている」
「……あかるい……」
「……ん?」

ブラックはふと空を仰ぐ。
青いオーラに包まれた青色の髪の怒り狂った人間が此方に向かって飛んでくる。

「……来たか」

ブラックはそう呟くと足を大きく開き、腰を落とした。

「かー……」

両手首を合わせ手を開き、体の前方に構える。

「めー……」

名無しは構えを取るブラックを不思議そうに見つめている。

「はー……」

段々青色の髪の戦士との距離が縮まっていく。

「めー……」

それを見ていた名無しは、何故か頭痛に襲われる。
脳裏に浮かぶがはっきりと姿を表すこともなく、もやもやした何かが名無しを苦しめる。

「波!!」

それはビームのような性質で、その戦士に向かって一直線に放たれる。

「ちっ、避けられたか……」

ブラックはふと名無しの方へ視線を向けた。
名無しは頭を抱えて何やら苦しんでいる。ブラックは不審に思い名無しの様子を伺う。

「どうした」
「……あ……いま、の……みた、ことが……ある、気が……する……」
「……なに?」
「っ、あぁ……頭がっ……頭が、痛い……!」

激しい頭痛に襲われた名無しは震えながら汗をどっと大量に浮かべた。
ブラックはまさか、と思いながらも名無しの背中をさすった。

「なにか……なにかが、思い出せそうで、思い出せない……」
「……!」

(まさか……いや、そんなはずはない!こいつから孫悟空の記憶は全て消したはずだ……)

ブラックがさっき放ったあの技は、悟空も放つことが出来る「かめはめ波」だった。
名無しはかめはめ波を放つ時に取る構えを見たときに頭痛に襲われたようだった。

「……名無し、思い出す必要はない。苦しむお前の姿は見たくないからな」
「……あ……、う……」
「お前は此処に居ろ。少し休め」
「……ブラック……」

ブラックは一度名無しを抱き締めた後、名無しの汗を手で拭ってやり、僅かに微笑した。
そして悟空の元へと飛び去っていった。
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