短編2

□分かってないね
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「な、なあ名無し。俺さ、お前のこと前から気になってたんだけど」

突然、俺の友人はおれの横を歩きながらそんなことを言ってきた。
俺は驚きながら苦笑しつつ答える。

「……え、何だよいきなりー」
「いや、あのさ……好きになったんだよな。お前のこと」

そいつが真剣な表情で言うものだから、俺は冷や汗を浮かべた。
俺はこいつを恋愛対象としてなんか見てない。好きになることなんて、多分無理だ。だから首を振って返した。

「……や、やめろよ、そういう冗談は」
「本気なんだって。付き合ってくれよ、なあ、名無し。好きなん―――――――」

ズシャッ



「………………えっ?」

自分でも間抜けだと思うくらい、力の抜けた声が口からこぼれた。
友人は、口から大量の血を吐き出し、ゆっくりと倒れた。
彼の体には何かに貫かれたような痕が残っていて、身体中から血が流れていき、俺は吐き気を覚えて口をおさえた。

……救急車……呼ばなくちゃ……。
携帯電話を取りだそうとするが、手が震えて、終いには痺れだしてまともに動かすことが出来なくなった。
もう夜遅く人の姿が全く見当たらない街の中で、友人は突然こんなひどい目にあった。
そして、即死だったために……もう俺が我に返った時には息をしていなかった。

「名無し!でえじょうぶか!?」

そんな時、突然、後ろから悟空の声が聞こえてきた。彼は俺の大切な恋人だ。
俺は少し安堵して、悟空に事情を話そうと思った。
でも、悟空の姿を見て、呆然とした。

「おめえ、こんな変なヤツに絡まれてたんだな……なんでオラに言ってくれなかったんだよー」

悟空は血だらけの格好をしていた。顔も服も、血の色に染まっていた。
それが友人の流した血だと認識するのに時間はかからなかった。
一瞬の間で、悟空は友人を殺したようだった。友人は、全く悟空に気づくことのないまま、死んでいった。
俺は、頭の中がごっちゃになって、思わず尻餅をついた。
初めて、悟空を怖いと思った。
どうして、人を殺したのに笑っているんだろう。
どうして、友人を殺したんだろう。
どうして、そんなに嬉しそうなんだろう。
聞きたいことが、山ほどあって、でも、それらは結局答えを見つける前に、聞く前に、消えていく。

突然、悟空は俺に抱きついてきた。
俺は震えることしか出来なくて、呆然としながら震える口を何とか開いた。

「危なかったなあ、もうちっと遅れてたらおめぇ犯されてたぞ」
「お……おか……?」
「もしおめぇがこいつに犯されていたら、オラ、こいつを消し飛ばしてたかもしれねえ。
まあおめぇが犯されずに済んだから、こいつも消されずに済んだんだけどな!」
「ご……悟空……何、変なこと言って……」

消し飛ばしていたかもしれない?
犯されていたかもしれない?
何を言っているのかさっぱりわからなかった。いや、分かりたくもなかったんだ。
友人が、俺を犯そうとしていたなんて、そんなこと信じたくもない。
血まみれの顔で悟空は頬擦りをしてきた。俺は血の気が引いたような気がした。

「名無し、駄目じゃねえか。オラ以外のやつと話すなって何回言えばわかんだよぉ」
「え、あ……ご、ごめん……なさい……」
「これからは気ぃつけるんだぞ。話しかけられても無視しろよ?」
「い、いや、そ……それは、流石にできないよ……」
「なんで?」
「え、あの……その……」

悟空は俺の返答を聞いた瞬間表情を険しくした。
俺はしどろもどろになって何か答えようとするが、良い返事が思い浮かばなかった。

「おめぇ、オラ以外のやつに犯されてもいいのか?」
「お、犯されるなんて、そんなことあるわけないよ……」
「はあ……わかってねえなあ」

ため息をつかれ、俺はますます返答に困った。
何故犯されると思うのか分からなかった。

「……まあいっか。少しずつ教えていけば、おめぇもいずれ理解できるさ」
「……教えるって……な、何を……?」

そう尋ねても、悟空は何も答えてくれなかった。

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