短編2

□夢
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「……トランクス君……大丈夫かな……」

俺が戦えたのなら、どれだけ良かっただろう。
少しはトランクス君の力になれたかもしれないのに。
……駄目だ、頭がずきずきする……。死ぬのかな……俺……。





『名無し。……名無し』

……あれ?ここは……。

『……!悟空!』
『……でえじょうぶか?ずっと寝てたみてえだけど』
『……だ、大丈夫……だよ』

そうか。ここは……夢の中なんだ。
もう何年も、悟空は俺の夢の世界には現れてくれなかった。

『悟空、会いたかったよ』
『おう。オラもだ。……名無し、おめえ……ちょっと痩せたんじゃねえか?』
『……そう、かな』
『無理すんじゃねえぞ?』
『……うん』

悟空の手に触れると、彼は俺の手をぎゅ、と握ってくれた。
永遠に夢から覚めたくない気分だった。
夢から覚めたら、もう悟空は居なくなってしまうのだから。

『……悟空がいなくなってから、この世界は随分変わってしまったよ』
『……そうか』
『……ねえ、悟空?』
『ん?』

俺はゆっくりと悟空に近づき、抱きついた。
悟空は黙って俺の腰に腕を回して抱き寄せてくれた。

『……ずっと、こうしていたいな』
『……ああ。そうだな』
『……名無し』
『……うん……』

悟空の指は俺の顎をぐい、と持ち上げ、彼は無邪気な笑みを浮かべると唇を重ねてきた。
俺は唯一の幸せな時間に酔いしれた。

『……一緒にいられなくてすまねえな』
『……ううん。いいんだよ』

ふと顔を上げた。
風がぶわりと吹き上げる。俺は違和感を感じた。
悟空の明るく元気な笑みが、やがて冷たい笑みに変わる。目を見開いた。

『孫悟空だと思っていたのか?』

……え?

『今、お前の目の前に居るのは、孫悟空ではない』

嘘だ。

『奴もしぶとくお前の記憶の中に残っているものだな』

悟空の姿は徐々に変わり、黒に染まった格好へ移り変わる。
表情すらも、俺が今、一番見たくもない、会いたくないやつの顔に変わり果てた。
俺は今まで幻覚でもみていたのか?
そんなの……うそ……だ……。


「…………はっ!」

大量の汗を流しながら俺は目を覚ました。
ああ……。俺は、トランクス君と一緒にいた小さな家にもどってきた直後、頭痛で倒れてそのまま眠ってしまったんだな……。
どれくらい眠っていたのかはわからないけど……トランクス君はまだ帰ってこない。
本当に……大丈夫かな……。
ガチャ

「!」

突然ドアが開き、何事かと思えば、ボロボロになったトランクス君が現れた。

「と、トランクス君!」
「名無しさん……今から過去の世界に行きましょう」
「え?」

過去の世界?
聞き慣れない言葉に戸惑う。トランクス君は俺の腕を掴むと息を乱しながら話し始める。

「俺は一度、過去の世界に行ったことがあるんです。……其処には俺の父さんや、悟空さんも居ます」
「!」

……過去の世界の……悟空……。

「父さんたちに力を貸してもらえば、きっとブラックも倒せるはず……」
「……」
「……名無しさん。実は……此処に来るまでに……色んな悲劇がありました……」
「え……?」
「母さんと……マイが殺されてしまったんです」
「!」

そんな……ブルマさんとマイさんまで……。
震える俺の手を握り、トランクス君は暗い表情で続ける。

「片道分しかありませんが……何とか行けるはずです。……名無しさん、一緒に来てくれませんか。
貴方を此処に置いていくわけにはいきません。貴方までやられたら、俺は……」
「…………わかった……」
「……ありがとうございます。急ぎましょう。奴に見つかる前に」




トランクス君と共に、俺はタイムマシンに乗り込んだ。
状況が読み込めない中、ブラックに見つかり、絶望しかけたけれど、何とかやられる前に過去の世界に飛ぶことが出来たみたいだった。

そんな中、俺はまた、意識を失うのであった。

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