短編2

□幻
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摘んだ花を既に置いておいた花瓶の中にそっと入れて、俺はまた寂しい気持ちに包まれる。
あの人が死んでもう1年になる。もう二度とあの人はここに現れない、そんなことは知っているのに
どうしても信じたくないのだ。
墓に背をくっつけて、そのまま眠りに落ちてしまった。

「……?」

目が覚めるとさっきまでいた場所とは違う、見た事のない場所に寝転がっていた。
どう言えばいいのだろう。周りは穴だらけだ。
まるでかくれんぼに最適な場所のようで不思議だった。



ザーーーッ

突然風が強く吹いた。
ふと前を見ると、その辺に生えていた草が全て刈り取られたように宙に浮いた。
草は塊になり、やがてぐるぐると竜巻のような形になって回り始めた。
やがて竜巻の形から人の形になり、姿がはっきりと見えるようになっていった。
俺は何も言えず呆然としていると、草の塊が一気に周りに飛び散って消えていった。
思わず目を見開いた。あれだけ愛していた、もうこの世にはいない彼が、そこにいたんだ。

「名無し」
「……ベ……ジータ……」
「どうした?そんなに驚いた顔をして」
「そ、そんな。どうして?ベジータはもう死んでいるだろ?」
「何を言っているんだ?」
「え…?」

口を挟む間もなくベジータは口を開いた。

「……名無し、俺と遊ばないか?」

「あ……遊ぶ?」

呆気にとられていると、ベジータは気づけばすぐ目の前にいた。
そして、ふっと口元を緩ませた。

「そうだな……かくれんぼがいいだろう」
「かくれんぼ……?」
「ああ」

確かに、この場所は隠れる場所(穴)がいっぱいあるし……。
でも、どうしてかくれんぼなんだ?

「名無しが鬼だ。しっかり10秒数えるんだぞ」
「……うん」

ベジータは相変わらず微笑みながら唇に指を当てた。

「俺を見つけられたら、お前の願いを何でも一つかなえてやろう」
「……うん、わかった!絶対見つけるからな」
「ああ……やってみるといい」

10数えて、俺は目を開けて、周りを見回す。

「よ〜し。絶対見つけるからな!」

だけど、
どこを探してもベジータはいなかった。

「ベジータ〜?」

最後の穴に入った瞬間、さっき見たような草の塊が
目の前に現れた。竜巻の形だ。

「あっ……」

ザアッ
髪がぶわっと乱れ光と共に強風が襲ってきた。
その瞬間、穴だらけの不思議な場所は消え、
我に返ったときには、もう俺は墓の前に立っていた。
……そうか……やっぱり、幻だったのか。
そうだよな……ベジータが、この世にいるわけないもんな。



見つけられたのなら、俺はベジータとずっと一緒にいられるよう願ったのにな――――

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