短編2

□そのままで
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「ほっ……あーだめだ、届かない……」

情けない事に、俺は今高いところにある本を取ろうとしているが、全く届かない。
要するに俺はチビだという事なのだ。
まあ……よく身長で馬鹿にされるけど、もう慣れた。
……いちいち気にしてたら、疲れるもん。

「はあ……」
「ははははっ、ホント小さいなお前!」

ゲッ……。
やってきたぞ、意地悪ラディッツ。(俺が勝手につけたあだ名)
一応恋人。

「うるさいな。ほっといてくれよ」
「ほっとけねーよ」
「何?俺になんか用でもあるの?」
「お前に用はない」

そんなに余裕ぶった表情するな。
何か腹立つ。

「後ろから見たらただのガキにしか見えねえけど」
「……」

反応するとまた笑われるから無視。
ひたすら無視。
ていうか恋人なら、ちょっとは気使えよな。
なんでわざわざ余計なこととか言うんだよ。俺が腹立つようなことばっか言うし。

「ったく仕方ねえな」
「え、うわっ」

いきなり横からラディッツが手を伸ばして本をひょいと取った。
くそ……身長高いっていいなあ……。
でもどうも、その行為が身長高いってイイだろってことを自慢してるようで、ちょっとイラっと来てしまった。
いや、ありがたいんだけどさ。

「ほらよ」
「……ありがとう」
「こんなときばっかり可愛いんだな」
「!う、うるさい」

何でそんなこと不意に言うのさ……。
しかも、何か顔近いし。
あ、もしかして、何か狙ってるのかな。

「絶対意地悪ラディッツよりでかくなってやるから」
「……なんで?」
「え?いやなんでって。馬鹿にされるのが嫌だから」
「そのままでいろよ」
「え……」

突然彼の手が俺の頬に触れた。
やけにあったかくて、少し身体が震えた。

「お前、小さいほうが可愛いから」
「か、可愛い!?」
「それに、こうすることもできるだろ」

今度は頭に手が移って、優しく撫でてくる。
それがやけにくすぐったくて思わず目を閉じた。

「名無し」
「な、なんだよ」
「……いや、やっぱりなんでもない」
「なんだよそれ」
「……」

何故か顔が赤いラディッツは本を俺に渡してそのまま歩いていく。
慌てて後を追いかけると、ラディッツは天井に頭をぶつけた。

「い……いてぇ!」
「……ぷっ!」
「笑うなアホ!!」

身長が高い人にも、不便な事があるという事に今更気づいた。

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