短編2

□記憶
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名無しの死により悟空は守れなかったという後悔と激しい怒りに襲われた。
名無しの遺体も見つからずに一度元の世界に戻ってきたが、一刻も早く名無しの仇を討つために、
ほとんど休むこともなく、ベジータとトランクスと共に再び未来の世界へとタイムマシンで移動した。





変わらず不穏な空気に包まれている未来世界。
空色も暗い色のままで人の気配は全く感じられない。

「ザマス!ブラック!出てこい!!」

悟空の叫びに近い怒りの声が響くと同時に、空が一瞬ぴかりと雷が落ちた時のように光った。
しばらくして、憎き敵が二人、現れる。

「懲りずにまたのこのことやってきたか、人間共」
「よくも……よくもオラの名無しを殺したな……!!」

すると何故かザマスとブラックは不敵な笑みを浮かべて笑いだした。それが悟空の怒りを誘う。

「殺した?どうやらとんだ勘違いをしているようだな、人間よ」
「なに……!?」

驚く悟空の表情を見て、ブラックはわざとらしく豪快に笑った。

「名無しは生きている」
「!?…………う、嘘だ!」
「本当だとも。……名無し」

ブラックは指をパチンと鳴らした。
するとブラックの周りが霧に包まれる。

「悟空さん……名無しさんが生きているのは本当なんですか?」
「わからねえ……。いや……名無しはあいつに殺されたんだ……生きてるわけねえよ……」

霧が徐々に消えていき、悟空はじっとその光景を見据える。そして、驚きで目を見開く。
ブラックのとなりにいたのは、名無しだった。
格好も顔立ちも身体も何もかもが名無しそのものだった。本物だ。名無しは生きていた。
だが、一体どうして?悟空はわけがわからなかった。
ベジータやトランクスも驚きを隠せない様子だった。

「……名無し!」

悟空が名無しの名を呼ぶが、名無しは無反応でなにも言わない。
明らかにいつもの名無しとは様子が違った。

「貴様が名を呼んでも無駄だ」
「……おめぇ、名無しに何をしたんだ!」
「こいつを願いを叶える珠で生き返らせ、こいつの脳から貴様と貴様の仲間どもの記憶を消したのだ」
「……!!」
「今やこいつは私とザマスの味方……
貴様等と共に過ごした記憶など、もはや今のこいつには残されていない」

呆然とする三人を前に、ザマスとブラックはざまあみろとでも言わんばかりの表情を浮かべた。

「まあ折角のこのことやって来たのだから、
ちょうど良い。今度こそ決着をつけるぞ。愚かな人間共め……」
「……絶対おめぇらをぶっ倒す……!!」
「行くぞ!カカロット、トランクス!」
「はい!」

名無しを取り戻すため……悟空は飛び立った。





ブラックのもとへ飛んでいく悟空。
拳を振り上げ、ブラックに殴りかかろうとしていた時だった。
名無しがブラックを庇うようにして目の前に現れ、悟空は直前で止まった。

「名無し……」
「…………」
「無駄だと言っているだろう」
「きさま……!」
「……ふふ、死ぬ前にいいものを見せてやろう」

ブラックは片頬をあげて名無しを自分の方へ引き寄せた。
悟空は名無しの名を呼ぶがやはり名無しは反応するわけがなく、ブラックの方を見つめている。
まるで洗脳されているかのようで、人形か何かのように何も話さず、無表情だ。

「!」

ブラックは名無しと唇を重ねた。
そんな光景を目の前で見せつけられた悟空は怒りを爆発させる。
殴りかかるがその拳はブラックに受けとめられる。

「こいつが私を受け入れている時点で……分かるだろう?孫悟空」
「…………っく……!」
「私は名無しを愛し、名無しも同時に私を愛しているのだ」

聞きたくもない言葉を次々に放たれ、悟空は一瞬呆然とする。

「後悔するがいい。愛人を奪われたのは、貴様のせいなのだということに」
「名無しは……おめぇのものなんかじゃねえ!」
「!」

ブラックは絶望しているであろう悟空の姿を見て油断していたために悟空に思い切り頬を殴られふっ飛ぶ。
その隙に悟空が名無しの肩を掴む。

「名無し……ほんとに……オラのこと忘れちまったんか……」
「…………」

名無しはじっと悟空を見つめていたが、やがて目を逸らした。
そして何も言わずにブラックの方へと飛んでいく。
悟空は愛する人を自分のせいで失ってしまったことに絶望しそうになっていた。
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