短編2

□臆病
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なあ名無し。お前は俺より強い癖に、偉そうじゃなくて、いつも優しくしてくれるよな。
そんなお前が、俺は好きだ。




「名無し」

名を呼ぶと、何か考え事をしていたらしくびくっと体を震わせた後、振り向いた。
そんな反応を見るだけで愛しく感じる。

「おはよう、ラディッツ」
「おはよう。……なあ、今度行く惑星の制圧についてなんだが、お前と一緒に行ってもいいか?」
「うん」
「そうか。すまないな。いきなりこんな話を持ち出して」
「大丈夫だよ」

本当は、お前を守れるくらい強くなりたい。
それなのに、今は立場が逆で、俺はお前に守られてばかりいる。
それが悔しくて、余計、苦しい。




ねえラディッツ。どうして俺に話しかけてくれるの?どうして一緒に戦ってくれるの?
嬉しいのに、ラディッツが傍にいると胸が苦しいよ。
君を好きになってしまうなんて、思ってもなかったのに。



名前を呼ばれるたび、心が躍る。
おはよう、と挨拶すると、彼は微笑んで挨拶を返してくれた。
そして、今度俺が行く惑星の制圧に自分も行ってもいいか、と言ってきた。
頬が自然と火照って行く。また一緒に同じ惑星に行って、一緒に戦えるなんて。それが本当に嬉しい。
うん、と言って頷くと、

「そうか。すまないな。いきなりこんな話を持ち出して」

彼は申し訳なさそうに謝ってきた。
謝らなくていいのに。嬉しいよ。でも、素直に思ったことを全て伝えてしまったら、
きっと彼は俺のことを気持ち悪いと思うだろうな。
彼とは長い付き合いで、友達から親友にと長い年月をかけて関係を深くしてきた。
だから仮に告白して、今の関係が壊れてしまったら……そう思うと苦しいんだ。
でも、これ以上の関係になりたいという欲望もある。
好きなのに、今の関係を壊したくないから気持ちを伝えられないなんて……こんなに嫌なことはないよ。
……どうすればいいのかな。俺……。




もし俺がお前に気持ちを伝えたら、お前は何て返してくるんだろうな。
想像が出来ないからこそ、俺は余計に怖くなって、
結局いつも、俺はお前の腕を掴んで引き止めることすら出来ずに別れてしまう。
臆病者だな、と何度も思う。
名無し……こんなに苦しむなんて……俺が、お前を好きになったことが間違っていたのか?





俺はわがままだから、いつもラディッツに俺の気持ちに気づいてほしいと思ってしまう。
臆病な俺は、君に、かっこいいとも、好きだとも言えない。
すぐ近くに君は居るのに、まるで遠い存在のように感じる。
……悲しくて、俺は君を好きにならなければよかったのかなとすら、思えるようになってくるんだ。


「あの、ラディッツ」
「名無し」
「…………あ。さ、先に、どうぞ」
「いや、お前が先に言え」
「…………また、ね」

臆病な自分が嫌いになりそうだ。
結局、また今日も別れを告げる。手を振ると、彼は躊躇いがちに手を振った。

好きになることが、これほど悲しいことだなんて。




君(お前)が俺を好きになる日なんて、来る(んだろうか)のかな。

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