短編2

□悲しい運命
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「おい知ってるか?惑星ミートが侵略されたらしいぞ」
「ほんとかよ!?惑星ミートってすぐ近くの星だろ?侵略したって、どこの星のやつだよ……」
「惑星ベジータに住んでるやつらだよ……サイヤ人っていういかれた民族がたった一日で制圧したとかなんとか……」
「そうなのか……俺達も備えたほうがいいんじゃねえか?」

花に水をやっていた名無しは近くで話していた男二人の話を耳にした。

(そういえば、最近他の星がどんどん侵略されてるみたいだな……。俺も備えたほうがいいよな……)

家に帰って、男達が話していたことを両親に話した。
しかし、両親は自分達の星が侵略されるわけがないと言ってばかりで信じてもらえなかった。
結局名無しは説得することを諦めて、その日は寝ることにした。






深夜。
突然激しく大地が揺れ始めた。
振動で目を覚ました名無しは慌てて部屋のカーテンを開ける。
目に映った光景に呆然とした。視界いっぱいに広がる炎。周りが燃えている。
すぐに火事なんかじゃなく、もっととんでもないことが起きているのだと気づいた。

「ま……まさか……!」

あの男達が話していたサイヤ人がやってきたのか。
冷や汗を浮かべ、部屋を出ると寝ていた両親を起こす。一緒に外に出ると、周りの家は全て燃えていて、辺り一面が紅蓮に染まっていた。
悲鳴と爆発音が聞こえてくる。何が起こっているのか全く分からない。
友達を探してくる、と名無しが両親に告げて走り始めた瞬間。

ドォォォォォォン

え……と小さく声を漏らし、ゆっくりと振り返る。

「……あ、あぁ……!」

振り返った時には既に両親が血を流して倒れていた。
名無しは恐怖と絶望に身体を震わせ、そのまま尻餅をついた。

「ククク……」
「!!」

笑い声が聞こえてくる。
恐らくこの声の主がこの惑星を襲った犯人なのだろう。

「だ……誰だ……」

巻き起こる煙の中に一人の影が見える。

「……あとはお前だけだな」
「…………お前が……みんなを……殺したのか……?」

姿を現したその男は、サイヤ人と呼ばれる戦闘民族の男のようだった。

「殺したさ」
「……っ、うう……っ、ひぐ……」

大事な人たちを一瞬で失った。
友達も、両親も、この男一人の手によって。
名無しは俯き、ぽろぽろと涙を流した。何もできなかった自分に腹が立った。
このまま自分も殺され、この星はサイヤ人によって制圧されるのだ。認めたくもないことだが、もう受け入れるしかなかった。

「このままお前を殺すのもいいが……そうだとつまらないな」
「……なん、だと……っ」
「……ああ、お前の顔、最高だな。そそられるぜ」
「……!!」

不敵に微笑み、その男は名無しの腕を掴んだ。
名無しはすぐに離そうとするが、男の、腕を掴む力があまりにも強く、微動だにしなかった。

「どうした?抵抗しろよ」
「……う……っく!」
「俺を、倒したいんだろ?」

顔を覗きこんできて、挑発するような口調で話しかけてくる男に、名無しは怒りを膨らませる。
けれど心の隅では、この男を倒すことなど不可能だと分かっていた。
いっそこの男に気に入られるくらいなら、殺されたほうがマシだ。

「……殺せよ……」
「?」
「お前のものなんかになるくらいなら、死んだほうがマシだ……!」
「ふっ。そう簡単に殺してたまるか」
「それなら……自分の手で死ぬさ……」
「そうはさせねえよ」
「……何で……何でだよ……!」
「お前を気に入ったからだ」
「……どこが……気に入ったっていうんだよ……」
「お前の絶望し、涙を流すその顔が、だよ。……なに、すぐにお前の身体も、心も好きになるさ」
「好きになられて……たまるか……!」

そう言った直後、腹に激しい痛みを覚えた。
男が自分の腹を突然殴ってきたことに気づいた時には吐き気を覚え、男のほうに倒れこんだ。
名無しはしばらくしてあまりの痛みに我慢できず気を失った。
男は名無しを抱き抱え、立ち上がるとあとからやってきた彼の仲間の気配に気づき振り向く。

「……ターレス様」
「……ああ。いい獲物を捕まえたぜ」
「……見るからに弱そうですが」
「神精樹の実を食えば、こいつもすぐに強くなるさ……」
「……それもそうですが、こいつが俺達に従うことは恐らく不可能なのでは……」
「そりゃあ、そうだろうな。……まあこれからじっくり色々考えていけばいい。……行くぞ」
「はい」

永遠と燃え続ける、何もかもが焼きつくされていく荒れ果てた星を、ターレスは名無しと仲間達とともに後にした。

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