短編2

□ちょっと怖い
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「へー……ここがゆうえんち、ってとこなんか?」
「うん」
「なんか、楽しそうだな!名無し、行こうぜ!」
「うわわっ、痛い痛い!腕引っ張らないでー!」

俺と悟空は此処、遊園地に遊びにきている。
休日だからか激混みで、とにかく人だらけ。
ぼうっとしてたら悟空とはぐれちゃいそうだ。
腕を引かれて、悟空は突然止まって「あれなんかどうだ?」と言って指差した。

「……うげ……」

ジェットコースターか……。
予感は的中した。何となく予想はしていたんだ。悟空が興味を持ちそうなやつはきっとジェットコースターだろうな、って。
一度乗ったことはあるけど、そのあと気分が悪くなったのをよく覚えている。だからあんまり乗りたくないんだけどなあ……。

「名無し!あれ乗ろうぜ!」
「ええ……悟空ひとりで乗ってきてよ」
「なんだよぉ、嫌なんか?」
「……まあ、多少は……」
「多少ならいいじゃねえか!ほらほらー」
「え、ちょ、ちょっと!?」

ぶつぶつ呟いていたら悟空がまた腕を掴んできて、俺は結局ジェットコースターに乗ることになってしまった。
悟空はすっかりハイテンションで、俺は逃げるタイミングを逃してしまった。
……はあ……でも、まあ悟空が喜んでくれるのなら、それでいいや。



「ああああああああああああああああああ!!!」
「イヤッホー!!」

……俺は乗っている間、終始叫んでいた。




「うぅ……もう……無理……」
「名無し、でえじょうぶか?顔色わりぃぞ」
「…………なんとか……大丈夫……」

吐き気がおさまらず、ベンチに座ったはいいものの、全く気分はよくならない。
やっぱり無理やりにでも断るべきだったかな……。
ああ……頭痛い……。吐き気も全然何とかならないし……。

「オラ、なんか飲みもん買ってくるぞ。何か飲みてえもんあるか?」
「……お……お茶……」
「わかった。買ってくるぞ」
「ありがとう……ごめん……」
「気にすんなって。オラのほうこそすまなかった」

悟空はそういうと、自動販売機の方へ走っていった。
……はあ……俺、何してるんだろ……。



「ねえねえ。そこのお兄さん!」
「……?」

甘ったるい声が聞こえてきて、顔をあげると、こりゃまた綺麗な女の人が立っていた。
俺は返事をする気力もなく、ただ彼女の顔を見つめる。

「ちょっとだけでいいから、私とデートしない?」

え、嘘だろ。これって逆ナンパってやつじゃないのか。
なんで誘う相手を俺にしたんだか……。あと、胸を強調すんのやめろ。

「……えっと、すみません。俺には恋人がいるので……」
「ええ、でもあなた、今ひとりじゃない!ね、いいでしょー?ほんのちょっとだけだからぁー」
「……」

……しつこい。参ったな……。
逃げようかと一瞬思ったけど、途中で吐いたらおしまいだ。だからといって逃げずにこのままいたら……。

「おい」
「えっ?」

低い声が聞こえてきて、俺はふと彼女の後ろに立っている男性に視線をうつした。

「わりぃけど、そいつはオラの恋人なんだ。勝手に手ぇ出されちゃ困るんだよ」
「やだーこわい……あなたこんな怖い人と付き合ってるの?」
「え?あ……」
「ハズレだわ。じゃあね?あなたにもう用はないわ」

彼女はなんか勝手に散々言っといてどこかに行ってしまった。……何だったんだ?

「悟空!ありがとう、助けてくれて」
「おう。買ってきたぞ、これでいいか?」
「うん。ありがとう。……ていうか、悟空……何で超サイヤ人3に……?」
「あいつが名無しに話しかけてんの見たら、嫌な気分になっちまってよ。
つい3になっちまった」
「えっと……もしかして、怒ってる?」
「おう。……もうちっと遅れてたらおめぇ、きっとあいつに変なとこに連れてかれてたぞ」

……うーん、そうかなあ。まあ確かに少し怪しかったけど。
でも嬉しいな。悟空が思わず3になるほど怒ってくれたなんて。でもやっぱり怒る悟空は、ちょっと怖い。

「……やっぱおめえって……変なやつに絡まれやすいんだな」
「そうかなあ」
「……オラが守ってやらねえとな……」

?どうしたんだろう。悟空、何か呟いてるみたいだけど、聞き取れない……。

「?悟空?」

声をかけると、彼ははっとして慌てた様子で苦笑した。

「あ、なんでもねえ。……それよりも、もう体調とかでえじょうぶなんか?」
「うん。吐き気もおさまったよ。ありがとう」
「礼言うほどのことじゃねえよ。なあ、次は何乗るんだ?」
「うーん……観覧車かなあ」
「それなら平気なんか?」
「うん」
「わかった。じゃあ、行こうぜ」
「うん!」





終われ

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