短編2

□すれ違い
1ページ/1ページ

「へー、強くなったなー名無し」
「はは、ありがとう」

強くなるためいつも俺は修行を欠かさない。
おかげでだいぶ星の制圧も楽になったし、皆が誉めてくれるようになった。
それが俺のやる気を更に上げてくれる。

「あ、そうだ。今度一緒にトレーニングしようぜ」
「ああ、いいよ」

楽しい会話を交わしながら歩いていると、見覚えのある男性が見えた。
彼はだれかを待っているようだった。でも俺は、話しかけるのを躊躇ってしまい、そのまま彼の横を通りすぎた。
後ろから視線を感じたけど、怖くなって振り向くことは出来なかった。





彼の名前はバーダック。
……俺の恋人なんだ。でも、最近あまり話していない。
関係がうまくいかない。簡単に言えばそうなる。



『今度どこか行かないか?』
『……めんどくせえ』

誘った時、いつも同じような答えしか返してくれなくて、俺は気づけば彼より友人を優先するようになった。
そうしたら彼は更に機嫌が悪くなって。

『……少し話したいんだけど』
『今は無理だ』

そんな会話ばかり続き、もうだいぶ前から俺はデートの誘いとやらも何もしなくなった。



本当にバーダックは俺を好きなのか?
そして自分も、バーダックを好きなのかどうか分からなくなってしまいそうだった。
すれ違いばかりのこの関係はどうにもならないのだろうか。

「名無しってがっちりしてるな!どんなトレーニングしたんだよ」
「なんか男前になったねー」

仲間達にちやほやされて、恥ずかしい気分になりながら俺は部屋に戻った。
ベッドに身を投げ、そのまま眠りにつこうとしていると、
スカウターが突然反応したので通信すると彼の声が聞こえてきた。

『おい、今どこにいる』
「……部屋」
『……そっち行くから待ってろ。話したいことがある』

返事をする前に通信は切られた。
出来れば今は話したくなかった。それでも、僅かな期待を寄せて、俺は部屋を出て彼を待った。




「……よう」
「…………あ、ああ」

相変わらず険しい表情だった。

「……お前」
「……なんだよ」
「最近俺以外のやつらとばかり話してるな」
「……そうだな」
「嬉しいか?」
「……なにが?」
「俺以外の奴に誉められて、身体触られて」
「……嬉しいかと言われれば、嬉しいかもしれない」

彼には頭を撫でられたことも誉められたことも、身体を触られたこともない。
わがままを言えば、少しくらい誉めてほしい。触ってほしい。

「楽しそうで何よりだぜ」
「……楽しいとかじゃないけど」
「……ふうん」

何で、付き合ってるのにそんなに冷たくするんだ。
こんなんじゃ……好きじゃなくなってしまうかもしれないのに。
少しくらい、優しくしてくれたって、いいじゃないか。

「それだけ言いたかったんだよ」
「……」
「じゃあな」

何も言えないまま。
引き留めることすら出来なかった。彼の背中はどんどん小さくなっていく。
バーダック。
心の中でなら、いくらでも名前を呼べるのに。
声には表せなかったんだ。



「……くそっ」

素直になれない。
またアイツを傷付けて。俺は何をしてるんだ?
ふざけてるわけじゃねえ。アイツに嫌ってもらいたいわけじゃねえのに。
もう俺以外の奴と話すなって、言えなかった。
冷たい態度を取って、アイツを傷付けたことを知りながらも俺はまたアイツと別れた。

「……名無しはもう、俺のこと好きなんかじゃねえんだろうな……」

やり直せるならやり直したいくらいだ。
俺が素直になれないのは自分でもわかってる。でもアイツは気づいていない。
……名無しは、何もかも、疑わずに受け入れる奴なんだ。
それが長所でもあり、短所であるのかもしれねえ。
……どっちにしろ、俺が間違っていたのかもしれねえ。
一緒にいてえのに、恥ずかしいから断ってしまう。いつもそんな繰り返しだった。
……それが何度も続いたせいで、俺らの関係はおかしくなった。
俺は嫌な気分になり、乱暴に煙草を口に咥えた。




嫉妬するのも素直になれないのも、恋をするのも……嫌になっちまいそうだった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ