短編

□会いたかったよ
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会いたかったよ
*




「ターレスったら、すっかり変わっちゃったね…」
「名無し…」

ターレスはぎゅう、と強く抱き締めてくる。
ずっとずっと、会いたかった。あの日からもう十年以上会っていなかったから。

「俺も、お前の姿を見て、驚いた。
もうやせっぽちの小せえガキじゃなくなったんだな」
「そんなに痩せてないよ」
「ハハハ…冗談だ」
「相変わらず、意地悪だね…ターレスって」

俺は見上げなければならないほど、彼は大きくなった。
俺よりもずっとたくましく、鍛えてある身体。けれど、その身体には痛々しい傷もある。
大人になったんだなって改めて思う。それになんだか…昔よりもさらにかっこよく、綺麗になった気がする。
でも、恥ずかしくてそれは言えなかった。

「お前を探すのに、苦労したぜ。スカウターには何の反応もないんだから…」
「俺も、ターレスをずっと待ってたんだ。
でも…ずっと来ないから、もう、忘れちゃったのかなって」
「馬鹿。忘れる訳ないだろ。
昔からずっとお前のことばかり考えていたんだから」

ターレスはきっぱりと言った。
そんなにはっきり言われては、照れる。

「ターレス、生きててよかった」
「俺もだ。あのお坊っちゃまに振り回されてないか、心配だったぜ」
「ごめんね、あの時…ターレスに、ついていけばよかったかもしれない。
そうすれば、こんな思いをすることもなかったはずなのに」

あれ、何だか…涙が出てきた…。
どうして、泣いてるのかな。俺…。

「名無し」
「え…?」

ターレスに顎をぐい、と持ち上げられる。そして、重なった…唇。
目を見開いた。今俺は、キスしているんだ!
そして、そっと唇がゆっくりと離れる。

「ター、レス…」
「好きだぜ、名無し」
「!」
「もう10年も前から好きだった。
でもよ…まだ、俺には、勇気がなくて」
「…」
「名無し…俺に、ついてきてくれるか?」

ターレスは、俺と一緒に宇宙を制覇する夢を叶えたいのだろう。
俺だって、実は…まだ、夢を叶えていない。あの時約束したのに。

「うん」

俺は強く頷いた。

「名無し」
「うん」
「お前を、ずっと守る」

『俺がお前を守るから』

少年の頃のターレスの言葉がふと、再生された。
あの時、俺は怪我をして、ターレスに心配をかけてしまった。
そんな時、ターレスはそう言ったんだ。ごめんな、と悲しそうな顔で言って。
俺は、自分を守ると言ってくれたターレスの瞳に、吸い込まれていた。

「ターレス、今度は、俺がターレスを守りたいよ」

でも、いつまでも守られてるのは、何だか嫌なんだ。
ターレスだって苦しい思いを何度もしている。彼だって、心の傷は深い筈なんだ。
本当は、傷ついているんだ。でも、彼は隠していたんだ。…今も、昔も。

「名無し…」
「もう隠さないでほしいんだ。傷ついてることくらい、俺には分かるよ」
「でも、俺は……」
「……いいんだ。ターレス。いいんだよ」

ターレスの、俺を抱き締める力が弱くなっていく。
俺はターレスを代わりに抱き締めた。大きな身体を、ぎゅ、と強く、強く。

「名無し、俺は…弱い自分を、見せたく、なかったんだ…」
「うん…」

ターレスの言葉を、一つ一つ、最後までしっかりと聞く。深く、頷きながら。

「誰にも…情けない自分を…見られたくなかったんだ…
嘲笑われ、馬鹿にされることを、恐れて…」
「うん…」

ターレスは、深く頭を垂れる。
まっすぐと、眉が下がっている。

「ずっと、隠してたんだ…
でも、俺が一番、恐れてたのは…」
「…恐れていたのは…?」
「お前に、嫌われる、ことだ…」
「……ターレス…」

恐れないで。
俺は…ターレスを嫌いにならないよ。嫌いになんか、なれないよ。

「ターレス、ずっと怖かったんだね」
「……ご、めんな」
「謝らなくて、いいよ。俺が、ターレスのそばにいるよ。
心の傷が、全部消えることを待ちながら」
「お前は…それでも、こんな、情けない俺の…そばにいてくれるのか?」
「うん。好きだから。守りたいから」

ターレスの瞳に光が灯った。
俺も、怖かったよ。ターレスと、一緒なんだ。情けない自分を見られたくなんかなかったよ。

「クソ…こんな時まで、お前は…本当に…お人好しな、ヤツだな」
「お人好しなんかじゃないよ」
「そう、だな……。悪い、……もう少し、このままでいさせてくれ」
「うん。ターレスの傍に居るよ」

ターレスの心を、俺が癒すことができれば、俺はとても幸せだ。

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