短編

□貴様は何も分かっちゃいない
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「それでベジータさん、この前のレポート、よかったですよ」
「フリーザ様に褒めていただけて、光栄です」
「ほほほほ、そんなにかしこまらなくても良いですよ」
「フリーザ様にお褒めの言葉をかけられるのは、私にとって一番嬉しいのですよ」
「そうでしたか。貴方は本当に素晴らしいお方ですね。さすがサイヤ人の王子といったところでしょうかね」
「ありがとうございます。…では、そろそろ退出させていただきます」

ウィーン

ドアが閉まった直後…ベジータは拳をぐっと強く握った。

(全くフリーザの野郎…くだらないおしゃべりはもううんざりだぜ…ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ、五月蝿い野郎だ)

さっきまでの清らかな態度がうそのようだ。
いや、ああいう態度を取らなければならないのだ。フリーザには逆らえない。
上には上が居る。それにしても、フリーザの会話にいちいち笑ったり驚いたり感心して見せたりしなければならないので非常に面倒である。

(クソ…少し寝るか。いらいらして仕方がない)

憤怒をなんとか抑えながら、ずかずかと部屋に向かって歩いていると…

「へえーそんなことがあったのか」
「そうなんですよ〜面白いですよね〜」

余計ベジータをいらいらさせる光景が目に映った。
名無しとキュイが会話を交わしているようだ。普通は横を通り過ぎて無視したり、気にしたりはしないだろうが、名無しが居るので、無視するわけにはいかない。

「おいキュイ!」

突然いらいらしたような声が聞こえてきた。
口を挟んできたのは言うまでもない、ベジータであった。

「なんだよ」
「フリーザ様がお前を呼んでいたぞ。急いでいかないと、殺されちまうんじゃないか?」

ベジータは嘘を言った。
こう言えばキュイはすぐにこの場から立ち去るだろう。後で文句を言ってくるのは見えているが、まあ彼が怒ったところでどうということはない。
相手がキュイだからこそ言えるのだ。キュイは慌てた様子で走っていった。

「珍しいな、貴様がキュイの野郎と話しているとは」
「別にいいじゃん!」

それより、と言うと、名無しはその場でぴょんぴょん跳ねた。

「王子、ハグして、ハグして〜」
「またか…」
「えへへ」
「貴様は餓鬼か。まあいい…」

子供のようにはしゃぐ名無しをそっと抱きしめた。

「あったかい〜」
「お前はこれだけで十分なのか」
「?どういうこと?」
「俺達は付き合っているだろ?それなのに、まだ……キスしてないだろ」
「うん、そうだね」
「俺は正直お前を抱きしめるだけでは物足りん」
「そっかーじゃあキスしていいよー」
「……軽いな貴様は」
「うん、そうかもねー」
「……」

ふう、とため息をつくと、名無しの唇に自分のを押し当てた。
自分からやったのにもかかわらず、恥ずかしくて仕方がなかった。名無しは顔を赤くしているわけではないがはしゃいで喜んでいる。

「王子ーもっかいしてー!」
「なっ、そんな容易く出来るものではない!」
「そうなの?」
「そうだ!少しは恋愛意識を持て!」
「うん、そうする〜」

何も分かっていない、いつもはしゃいでいて元気な名無し。もう20を超えているのに、とても大人とは思えないほど子供っぽい。
それでも、ベジータはそんな名無しを…いや、大事な恋人が大好きだった。

「えへへ〜王子すき〜」
「や、やめろ!べたべたくっつくな!」
「なんで、嫌なの?」
「場所を考えろということだ!」

それでも離れない名無しに、ベジータは、はあとため息をついた後、彼に見られていない間、ふっと微笑んでいた。
そして、名無しの頭を撫でようと腕を上げ…

「おい、ベジータ!」

ばたばたと足音が近づいてくる。
怒ったような声の主はさっきベジータに騙されたキュイであった。

「てめえ俺を騙しやがったな!フリーザ様は呼んでないっていっ」

ゴスッ!!
キュイは最後まで言うことができなかった。
ベジータに腹を殴られたからだ。恋人との絡みを邪魔されて、腹が立ったのだ。無理もない。

「ぐはあ…」

どさ、と倒れるキュイにはお構いなし…
ベジータは名無しの腕を引いて歩き出した。

「あれ、キュイさ…「他の男の名を出すな」え、どしたの?王子〜」
「わかったならハイとかうんとか言いやがれ」
「あ、ハーイ!以後気をつけマース!」

空いているほうの手で敬礼すると、ベジータは再び前を向いた。
名無しには分からないのだ、ベジータが嫉妬していることを。

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