短編

□1000年前
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「そうか、名無しっていうのか」
「はい、よろしくお願いします」

勇者は一般人と恋に落ちる。

「タピオンさんはいつも此処で修行しているんですか?」
「ああ、此処なら誰も居ないし、集中できるから最適だな」
「僕もタピオンさんのように強くなりたいな」
「君が、か?」
「はい。大切な人を守りたいから」
「そうか……それならオレと、一緒に修行しないか?」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます!」

出会って数日経ったある日、タピオンと名無しは共に修行することを誓った。
激しい修行を日々続けていると、力が身に付くようになり、
努力が実ったんだと名無しは嬉しそうに微笑んだ。
不思議とその笑みに、タピオンはどきりと心臓を跳ねさせた。

お互い親友といってもいいほどに仲を深めた二人は、
次第に何でも話すようになった。相談話や自身のことなど、何でも。

「名無し、君には兄弟はいるか?」
「いえ、居ませんよ」
「そうか。オレには弟がいるんだ」
「わあ、そうだったんですか!」

興味がありそうな顔で名無しは言った。

「ミノシアと言って、まだ幼いんだ。歳も結構離れている」
「一度見てみたいです」
「そうか、それなら今度、連れてくるよ」
「ありがとうございます!じゃあ食べ物でも持ってこようかな」
「ははっ、ミノシアは好き嫌いが激しいぞ」
「ええっ!じゃあ好きな食べ物を教えてください!」

タピオンは、名無しと一緒にいる時間が何よりも楽しいと思うようになった。
勿論、それは名無しも同じだった。




出会って1年経ったある日。
名無しは、思いきってタピオンに告白することにした。
その日はもう深夜であった。

「あ、あの。タピオンさん」

修行を終えて、帰ろうとしていたタピオンを呼び止めて、名無しは目を泳がせながら口を開いた。

「あ、あの、僕、あの」
「どうした?」
「ぼ、僕、タピオンさんのことが好きです!」
「!?」

タピオンは驚きで目を見開いた。
名無しは言っちゃった、と顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。

「あ、ああ、オレも、君が好きだ」

まだ混乱したままタピオンは頷いた。
名無しはぱあああっと顔をほころばせ、目を輝かせた。
ようやく落ち着いたタピオンは頬を赤く染めて微笑した。

「……じゃあ、改めて、よろしくな。名無し」
「はい!タピオンさん」

それから二人は、ずっと幸せに過ごすのであった、が。

数年経ち、コナッツ星は変わらず平和であったはずなのだが、
その平和は突然壊された。
幻魔人ヒルデガーンが現れてコナッツ星を襲ったからだ。
そして、ヒルデガーンによって、一人の命が奪われた。
名無し。タピオンの恋人である名無しがヒルデガーンによって殺されたのだ。
ヒルデガーンを倒そうと、勇敢に立ち向かった名無しは、一瞬にして命を失った。
そしてタピオンは誓った。勇者の剣を背に、必ずヒルデガーンを倒してみせると。
そして、時は今に至るーーーーーー。

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