短編

□熱烈な恋
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甘くくらりとするような香り。
あたり一面、バラだらけ。バラ畑、というのが相応しいのだろう。

「バラの花言葉をご存知ですか?」
「ううん」
「赤いバラ、ピンクのバラ、白いバラ、青いバラ、黄色いバラ……それぞれきちんと別々に花言葉が存在するのですよ」
「へえー。ブラックは全部知ってるの?」
「ええ」

自慢げに言う彼、ブラックと、呆れたようにため息をつく名無しの目の前は色とりどりのバラで広がっている。

「バラにはトゲがあるんだよね」
「うっかり指を怪我しないように」
「わかってるよ」

そっと丁寧に一つのバラを手にとって見ると、それは青いバラだった。

「わあ、青い。青いバラなんて初めて見たよ」
「青いバラの花言葉は「奇跡」……私と貴方が出会えたことを言っているのかもしれませんね」
「そうだね」
「おや、珍しく同意しましたね?」
「うん、ある意味奇跡だと思うよ」
「喜ばしい意味での、奇跡ではないということですか?」
「そういうことだね」
「フフフ、素直じゃありませんね」

ブラックがしゃがみこんでバラを眺め始めたので、名無しも隣で数え切れないほどのバラを見据える。
どのバラも太陽の光で美しく輝いている。しかしここまで数が多いと水やりが大変そうだ。

「貴方にひとつプレゼントしましょう」
「えっ、いいの?」

ブラックは意味ありげな笑みを浮かべて、バラの中へ手を突っ込んだ。
そして手を戻したときには一本の白いバラが手の中にあった。

「さあ、どうぞ」
「?白いバラか……花言葉は何?」

口元を緩めて、ブラックは名無しの耳元で囁く。

「私は貴方にふさわしい」
「!」

かああっと顔を赤くするとブラックは無邪気な子供のように笑った。
いつもこんな笑い方をすれば可愛いものを、彼は人を見下すような笑い方しかしない。癖なのだろう。

「それと、「深い尊敬」。これでも私は貴方に尊敬をしているのですよ」
「……ほんとに?」

目を細めて尋ねてみるとブラックは小さく頷いた。
そして真っ白なバラを名無しの手の中に収める。
そのときにブラックの手が重なり無意識にどきりとしてしまった。

「じゃあ僕はブラックにこれをあげるよ」

名無しは赤いバラをブラックに差し出した。
彼は一瞬驚いた顔をして不敵な笑みを浮かべた。この笑みはいつも何か企んでいるように見える。

「花言葉をご存知の上で私に?」
「……ふふ」
「……可愛らしい笑みをしますね、貴方は」

名無しは頬を赤く染めて笑った。
ブラックと名無しは指と指を絡め唇を重ねた。
そして名無しの口内に厚く濃厚な舌が侵入してきて、くちゅくちゅといやらしい音で中を犯した。

「ん、ふぅ、ブラック……」
「赤いバラの花言葉は何ですか?」
「……「あなたを、愛してます」。「愛情」、「美」、「情熱」、「熱烈な恋」……でしょ?」
「ふふ、そうです。正解ですよ」

ブラックの手が名無しの背をするりと撫でて、どさりと押し倒した。
バラの香りが間近で感じられて、うっとりとした気分になった。
そしてブラックの髪色がピンク色へと変わったとき、甘い香りが一気に強くなった。

「ブラック、いいにおい……」
「……名無しさん、もういいでしょう?」
「……うん。いいよ」

その日、名無しとブラックは共に夜を過ごした。

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