短編

□ごめん
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「ただいま……」

夜遅く、ようやく仕事が終わりぐったりしながらリビングに入る。
もう深夜だった。しかし電気が付いている。悟飯はまだ寝ていないようだ。

「悟飯君?」

しかし彼の姿が見当たらず、名を呼びながらきょろきょろと周りを見回していると、
ドンッ
突然背後から背中を強く押され、壁にぶつかった。
あわてて振り向くと、そこには冷たい視線で名無しを見据える悟飯がいた。

「ご、悟飯君……?」
「やあ、おかえり、名無しさん」

そうは言っているが、顔は笑っていない。
無表情のままだ。名無しはぞっとして、思わず目をそらした。
逃げられないようにするためか、名無しの腕をつかみ、冷たい表情でじいっと彼を見据える。

「ど、どうしたの、いきなり」
「ねえ、名無しさんってさ……浮気してるの?」
「えっ?」
「君、いつも知らない男と話しててさ……僕が知らないとでも思った?」
「う、浮気って。そんなことするわけないじゃないか」
「嘘吐き」

ギリリ、と腕をつかむ力が強くなる。
思わず名無しは片目をつむった。

「悟飯君、誤解だよ。……知らない男って、僕の仕事仲間のことだよね?」
「……そうだよ。君と同じような恰好をしてる人だ。僕はそいつをよく覚えてるよ……声も容姿も」
「彼はただの友達なんだ。それ以下でもそれ以上の関係でもないよ」

悟飯は少し、目をそらし、眉を下げた。

「それじゃあ……僕は勘違いをしてた、ってことになるんだね?」
「うん。まぎらわしいことをしたなら、ごめん」
「……いや、いいんだ。僕こそごめんね」

ふっと微笑んだ二人は互いにぎゅっと抱きしめあった。

「ごめんね。僕、面倒な恋人だよね」
「ううん、そんなことないよ」
「君は、こんな時でも優しいんだね」

名無しは優しく笑って見せると、踵を上げて悟飯と唇を重ねた。

「でも、僕ひどい奴だな、君が浮気してるだなんて思ってしまって」
「うん。ひどいね」
「はは……そう言う割には、怒っているようには見えないな」
「悟飯君だったら、何でも許せる気がするよ」

ぱあっと頬を赤く染めると、悟飯は急にあたふたし始めた。
名無しはそんな彼を見て首をかしげる。

「ど、どうしたの、大丈夫?」
「ご、ごめん。大丈夫だよ」
「そ、そっか」
「……」
「?」

悟飯が突然黙り込んでしまったので、名無しは不思議そうに彼を見つめる。

「どうしたの?」
「いや……幸せだな、って思って」
「あはは、僕もだよ」
「うん。……今日は一緒に寝ようね」
「……うん」

二人は、もう一度唇を重ねた。

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