短編

□君は一番
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学校一モテる孫悟飯は真面目な青年だった。
彼はもうこれまでに何回告白を断ってきたか覚えていない。
しかし相変わらず彼の人気は冷めることもなく、彼目的で入学する者も多い。
もう学校のほとんどの女子に告白され、すべて断ってきたというのなら、彼には好きな人などいないのではないだろうか。
そう疑問に思う男子たちだが、実は、いるのだ。異性ではなく、同性に。




「オイコラ、名無し、テメェ昨日はよくもやってくれたなぁ」
「ひ、ひいい、ご、ごご、ごめんなさい!」
「ぶつかったのも、どうせわざとなんだろ?テメェが俺のこと嫌いなのは知ってんだよ!」

金髪の不良を前にして、名無しはただただ、ひたすらに謝る。
名無しは穏やかな性格でひそかに天使と囁かれているが、どうも彼を気に食わないと思う男子がいて、
この不良が言っている「ぶつかった」というのは決して名無しがわざとぶつかったわけではなく、彼のほうからぶつかっただけである。
それなのに名無しは自分からぶつかってしまったと勘違いしている。

「ご、ゴメンナサイ、許してください、あの、あの」
「一発殴ってやるよ、今回はそれだけで許してやる」
「な、殴るって、そ、そんな、あの」
「あのあのうっせえんだよ、オラ、歯ぁ食いしばれ!」

名無しはほぼ泣きそうになりながら、目をぎゅっとつむった。
しかし、数秒経っても殴られた感触がなく、不審に思って目をそっと開けると。

「そ、孫」
「君、何をしようとしてたのかな?」

不良の腕を悟飯ががっちりつかんでいた。
骨が折れそうなくらい力を込めてみると不良がうめき声を上げた。

「イ、イテテテ、わ、悪かった、み、見逃してくれぇ!」
「二度とこの人に手を出さないならね」
「わかった、わかったから!」
「それならいいんだ」

ぱっと手を離すと、不良は泣きながら走り去っていった。
名無しはぼうっとしながら悟飯を見据えた。まさか学校一モテる人が助けてくれるなんて。

(優しくてかっこいい人だってことは何回もうわさで聞いたけど……本当にその通りなんだなあ……)

「あ、あの、あの」
「?」
「助けてくれて、ありがとうございました」

女子たちが惚れるのも無理がないようなさわやかな笑みを浮かべると、

「どういたしまして」

と返した。

「あ、あの、それじゃ、さようなら」
「あっ」

止めようとしたけれど彼のほうが素早かった。あっという間に名無しが姿を消すと、悟飯はふっと笑った。




(そろそろテストだし勉強しなきゃ……)

図書室に行くと、珍しく誰一人いない。
一人だと集中できるけれどどこかさみしいなと感じながら、椅子に座ってノートを開いた。
そしてしばらく黙々と勉強をしていると、隣の席に誰かが座った。

「?」
「こんにちは。また会ったね」

にっこり笑ってそういったのは、先ほど助けてくれた悟飯だった。
名無しはきょとんとして瞬きをした。

「悟飯、さん」
「あはは、同い年なんだからさん付けはいらないよ」
「え?えっと……じゃあ、悟飯君……」
「うん、それでいいよ」
「あの……悟飯君も勉強?」
「うん」

悟飯が勉強家なこともうわさで聞いたが、分厚い本が彼によって開かれると、名無しは呆然とした。
どれもとてもじゃないけれど高校生には解けない問題ばかりが載っている。
しかし彼が今この本を読んでいるということは、解けるのだろう。ペンは止まることもなく紙の上を滑っている。

「……」
「……」

ずっと二人は黙りながら勉強をしていた。
しかしその沈黙を破ったのは名無しだった。

「……う〜……」
「?どうかした?」
「い、いえ、ここわからなくて」
「ああ、ひっかけ問題だね。じゃあまずは……」
「ひやっ!」

耳元で囁かれ、名無しは飛び上がりそうになった。

「わ、わ、いきなり、なんですか!?」
「え?何?どうかした?」
「どうかしたじゃないですよ!い、今、すごい近くで……」
「名無し君、顔真っ赤だね。……こういうことされたら、興奮するのかな?」
「ふ、ぁっ!」

頬に何かぬめぬめしたものが触れたので、何かと思えば悟飯の舌だった。
耳の付け根まで真っ赤に染めると、名無しは両手で顔を覆った。

「や、やめてください、お願いします」
「お願いされても、あんな反応されちゃもっとやりたくなるよ」
「えっ、そ、そんなぁ〜」

名無しはその後気づいた。
悟飯は自分を好きなのだと。

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