story

□30分
1ページ/1ページ

長く続いた舞台が終わって、久しぶりに二人だけで遠出をした。
場所は神宮寺の好きな、温泉のある街。

喫茶店であったかいものが飲みたい、という岩橋のリクエストで、雰囲気のある喫茶店に寄り道をすることに。

「お待たせいたしました。ブレンドのお客様は…」
「あ、僕です」
岩橋が軽く手を挙げて、持ってきてくれた女の子に微笑みかける。
「ミルクとお砂糖は」
「いえ、ブラックで」
「はい。こちらはホットココアになります」
そう言って、彼女は甘い香りのするカップを神宮寺の前に置いて戻っていった。

「おい玄樹〜」
「えへへ」
岩橋は笑いながら、目の前のブレンドとココアをスライドして入れ替える。
「なんだったの、今のは」
「だって、持ってきてくれた子可愛かったじゃん。なんかココアって言うの恥ずかしくなっちゃって」
そう言いながらも、両手でカップを持って美味しそうにココアを飲む。
「んー!おいしい」
「俺はいいのかよ。裏であの子にココアくんとか言われても」
「いいの。神宮寺は」
国民的彼氏なんだから、と怒ったように呟く岩橋。
「だいたい神宮寺はみんなに優しくしすぎなんだよ」
「はいはい」
話題がめんどくさい方向にいきそうになったので、神宮寺はコーヒーに集中するフリをした。

二人が向かい合う窓際の席からは、東京では見られない景色が広がる。
ココアのカップで両手を温めながら、黙って外を見ている岩橋。
その岩橋を向かいの席から見ている神宮寺。
「玄樹さ、前髪伸びたね」
「うん」
「来週切りに行く?俺も一緒に行くから」
「うん、行く」

あ、と岩橋がiPhoneを持ち上げる。
「もう俺たちのこと書かれてる」
「twitter?駅で結構見られたもんね」
「そう、どんだけ一緒にいんだよだって。いいじゃんね」
「ま、俺ら熟年夫婦だからね」
二人で笑って、そろそろいこっか、と立ち上がる。

コートを羽織る神宮寺の隣で、岩橋がテーブルの上で何かをしている。
「ココアとコーヒー、また入れ替えてんの?」
「うん」
「あの子絶対気にしてないと思うけど」
「分かんないじゃん。俺のファンかもしれないし」
「いや、だったらコーヒー飲めないの知ってるでしょ」
「あー、そっか」
「ちゃんとコート着て。外めっちゃ寒いよ」
「うん」

キラキラした衣装も、ピカピカのライトも、女の子たちの歓声もないけど、こんな時間が二人には大切で。

「やばい!マジで寒いよー」
店の外で叫ぶ岩橋。
「玄樹、鼻水でてるよ」
「でてない!!」
「じゃ、いこっか」
「神宮寺そっちじゃない!さっきこっちから来たじゃん」
「あ、ごめんごめん」

なんの事件も起きない、二人の何気ないほんの30分ほどのお話。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ