ショートショート

コネタです。
◆オトコマエ 

二人がよく待ち合わせするのは、岩橋の家の最寄り駅のマック。
今日も二階のいつもの席で神宮寺が待っていると、岩橋が少し遅れ気味でやってきた。

「で、結局どこ行く?昨日LINEで俺が言ってたとこでいいよね」
挨拶なしで向かいに座り、iPhoneをいじりながらいきなり岩橋がしゃべり始めるのもいつものこと。
「……うん」
「?」
そこでようやくiPhoneの画面から目を離す。
目の前に座っている神宮寺は何だか様子がいつもと違っていて、テーブルに突っ伏したままだった。ハットのおかけで表情はまったく見えない。
「なにやってんの」
大丈夫?ではなく、そう尋ねるのも岩橋らしい。
「…落ち込んでんの」
そう呟くと少しだけ顔をあげて、金髪の前髪の間からちらっと岩橋を見る。
「は?なんで?」
「玄樹、絶対笑うから言わない」
「笑うかもしれないけど言って」
「正直だな」
「うん。そこ、俺のいいとこだもん」
「…知ってる」

そう言いながら右手を伸ばすと、コーラを持っていた岩橋の右手にそっと触れた。コーラから離れた指先が冷たくて、気持ちがいい。
「すごい嫌な夢見てさ……玄樹に彼女できてた」
「あはは、なにそれ。俺の彼女、可愛かった?」
「そこは覚えてないけど…思ってたよりすごい嫌だった」
岩橋の指先に触れたまま、またテーブルに突っ伏す神宮寺。
そんな神宮寺を見ながら、岩橋は嬉しそうに笑う。
「俺が羨ましかったの?」
「っていうか、そういうんじゃなくて…俺、夢の中でめちゃくちゃヤキモチやいて、イライラしててさ」
「うん」
「起きてからそれ思い出して、俺ちっちぇーなーって落ち込んでた」
笑っていいよ、とまたテーブルに突っ伏した。右手は繋いだままだ。
「やばい、神宮寺マジでかわいすぎ」
岩橋が嬉しそうに神宮寺に顔を近づける。
「キモくない?」
「なんで?俺いま、めっちゃ神宮寺ハグしたいと思った。チューしてあげてもいいよ」
iPhoneで隠しながら、お得意のキス顔でおどけてみせる。
「俺、全然国民的彼氏じゃなくない?ちっちゃすぎでしょ」
「いつも思うけど、神宮寺は国民的彼氏じゃないから。目の前の一人だけ大切にすればいいと思う!」
そう断言する岩橋に、思わず笑い出してしまう。
「よし、じゃ今日は野球ね!グローブ2つ、ちゃんと持ってきたんだからね!重いのに!」
ドン、とテーブルに大きな鞄を置く岩橋を見つめながら、世界一男前な彼女で幸せです、と呟く神宮寺なのでした。

2017/07/23(Sun) 09:48 

◆教育実習じぐいわ2 

「先生、メガネかけてるんだ。今日」
授業を終え、集めたプリントを揃えていた岩橋の目の前に、茶髪の生徒がやってきた。
「あ、うん」
「今日、初授業だもんね。もしかして岩橋先生って形から入るタイプ?」
「正解。神宮寺くん鋭い」
会話の途中で、岩橋の手から自然にプリントを引き取る神宮寺。
「あ、それ…」
準備室までだよね、神宮寺はそう言って歩き出した。

「ありがとう」
廊下を並んで歩くと、岩橋より背の高い神宮寺のほうが教師のように見える。
「俺がもし先生になったら、白衣着てメガネかけて、棒みたいなの持って形から入ると思う!」
「神宮寺くんは理科が好きなんだ?」
「え?べつに」
「だって白衣…」
「あっ!そっか。それ考えてなかった」
思わず二人で顔を見合わせて笑い出す。

教育実習が始まって2週目。
今日は初めての授業でガチガチに緊張してお腹も痛かったのに、いつの間にか忘れていた。

「プリント、ここでいい?」
英語科の準備室は少し他の教室から離れていて、走り回る足音も、賑やかな笑い声も遠くに聞こえる。
二人だけの空間が、何故だか岩橋には心地よかった。
「うん。助かったよ」
じゃあ俺はここで、と廊下に出ようとした神宮寺が振り向いてこう言った。
「そうだ先生、大事なこと言うの忘れてた」
「ん?」
「今日の授業、楽しかったよ」
また明日ね、と神宮寺は手を振って戻っていった。

男で、生徒なのに。
ドキッとしてしまった自分に驚く岩橋なのだった。

2017/07/07(Fri) 00:06 

◆ホクロ 

「お!イワゲンって耳の裏にホクロがある!」
雑誌のロケの休憩時間、暇そうに立っていた岸が叫ぶ。
「え、うそ」
思わず耳たぶを隠すようにおさえる岩橋。
「なんで隠すんだよ」
「だってなんか恥ずかしいじゃん」
「面白いじゃん。な、ジンさん知ってた?イワゲンの耳の裏のホクロ!」
「ん?知ってたよ」
「んだよ、知ってたのかよ」
鼻の穴を膨らませながら自慢げに話したのに、あっさり言われて凹む岸。
「玄樹って変なとこにホクロあるんだよ。鎖骨のとことか」
「嫌だって言ってるのにさ、そこばっか触るよね!」
怒ったように自分の鎖骨あたりを両手で隠す仕草が可愛い。
「おへそのちょっと下のとこにもあるじゃん。2つ並んでんの」
「…なんかほんとに恥ずかしいんだけど」
「ジンさんが言うといやらしいな!」
「あとたぶん玄樹も知らないとこにあるやつ、俺知ってるよ」
ニヤリと笑う神宮寺に、
「ストップ!それ以上はいいっス!」
両手を挙げて降参する岸くんなのでした。

2017/07/01(Sat) 08:16 

◆教育実習じぐいわ 

「ねー、岩橋先生って彼女いるの?」
「いるのじゃなくて、いるんですかだろ?」
放課後、今日も何人かの女子高生に囲まれているのは、教育実習生の岩橋。
小柄で可愛いタイプの岩橋は、あっという間に積極的な女子高生に埋もれてしまう。
「いいじゃん、教えてよー」
「英語で質問できたら答えてあげるよ」
「えー!ムリ!」

3週間ある、母校での教育実習。
バタバタの1週間が過ぎて、やっと生徒の顔と名前が何となくわかるようになってきた。
いい意味でも悪い意味でも、目立つ生徒は先に名前を覚えてしまう。

「玄樹せんせー、安井先生が準備室に来てくれって」
「ありがとう。今行く」
「ちょっと神宮寺〜!邪魔しないでよ」
「うっせ」
茶髪で背が高くて、一見チャラそうに見えるこの生徒は、いい意味で真っ先に名前を覚えてしまったうちの一人。

「安井先生、遅れてすみませ……あれ?」
英語科の準備室には誰もいなくて。
岩橋はとりあえず実習生用の椅子に座って、今日の授業の反省をまとめ始めた。
夕日でオレンジに染まる静かな準備室に、吹奏楽部の音出しや、校庭の部活の生徒たちのかけ声が懐かしく響く。

「ごめん先生、さっきの嘘」
突然聞こえた声に驚いて顔を上げると、目の前に神宮寺が立っていた。
茶色の髪がキラキラ光っていて、ほんの少しだけ見とれてしまう。
「…え、嘘って?」
「先生困ってそうだったから、逃がしてあげようと思ってさ」
「そっか、ありがとう。助かった」
「じゃあさ、お礼もらっていい?」
「お礼?なに?」
「彼女いるのか俺にだけ教えて」

2017/06/11(Sun) 21:27 

◆目撃証言 

「あっ、岸くん岸くん!」
「お、どした?」

今日は番組の公開収録用の振り付け。
最近仲良くなった後輩ジュニアが、一人でレッスン場に入ってきた岸に声を掛ける。

「神宮寺くんって、彼女いるんですね」
「えっ!マジで?何それ俺知らない!」
せっかく小声で後輩が言ってくれたのに、思わず大声が出て周りの注目を浴びる岸。

「昨日、俺の友達がスタバで見たって言ってて」
「え、なに、神宮寺と彼女が一緒のとこ?それマジで本人?」
「あんまジャニーズ知らない友達なんですけど、神宮寺くんの写真見せたら絶対そうだって」
「マジか…」
「スタバで二人で買い物してたみたいですよ。彼女がメニュー指差して、神宮寺くんが彼女の分も注文してたって」
「うわー、リアルだあああー!!」
「並んでるときも彼女の頭ポンポンしたりして、超ラブラブだったって」
「……待て。とりあえず、とりあえず落ち着け!」
「俺は落ち着いてますよ」
「いいか?とにかく!その話、イワゲンには絶対言うなよ!!」
「えー、なんで俺には言っちゃダメなの?岸くん」
「うわー!!でた!!」
突然後ろから現れた岩橋に、思わずひっくり返る岸。
「あ、岩橋くん!」
「お前言うなって!!」
慌てて後輩の口を塞ごうとするが、その動きがますます怪しいことに気づいていない。
「なんだよそれ。なに?教えて」
「何でもないって!それよかイワゲン、神宮寺は?神宮寺!」
「トイレ行ってる。いつも一緒みたいな言い方しないでよ」
「いつも一緒だろ!」
「で、俺に言っちゃいけないことってなに?」
岸の手を振りほどいた後輩ジュニアが、嬉々として答える。
「昨日の夜、俺の友達が神宮寺くんと彼女見たんですよ!」
ああ〜〜と叫びながら隣で頭を抱える岸。
「…昨日?」
「そうです。スタバで」
「…渋谷の?」
「あ、そうです!渋谷の!」
「それ、俺だけど」
「「えっ」」
思わず二人で声が揃う。
「神宮寺と一緒にスタバ行ってたの、俺」
「えっでも友達が、一緒にいたのすごい可愛い女の子だったって…」
「だってほんとに俺だもん」
呆然としていた岸が口を挟む。
「イワゲンの分も、注文は神宮寺がしたとか?」
「うん」
「頭ポンポンしてた?」
「え、してたかな。覚えてないよ」
「ラブラブだった?」
「べつに普通だし!」
結局プンプンしながら岩橋は神宮寺のところへ行ってしまいました。

「…なんなんだよ〜!俺、いのち縮まったよ!」
「岸くん、それを言うなら寿命ですよ」
中学生の後輩に突っ込まれる岸くんなのでした。

2017/06/07(Wed) 22:27 

◆じぐいわようちえん 

「ねえ!じんぐうじ!」
ピンクのシャベルを持ったげんきくんが、じんぐうじの前で仁王立ち。
なぜかほっぺを膨らませて、ご機嫌ナナメです。

ここはジュニア幼稚園。
今は自由に遊んでいい時間なので、みんな思い思いに遊んでいるところ。
じんぐうじは、砂場でお城を製作中です。
「げんき、どうしたの?」
「つまんない。あっちで、やきゅうしよ!」
「ちょっとまってて?いま、しょうとおしろ作ってるから」
「やだ!」
「すぐおわるから。ね?」
「しょうばっかりずるい!」
「だって、しょうは、しんゆうだから…」
「!!」
しんゆう、の言葉に火がついたように泣き出すげんきくん。
泣きながら振り回したピンクのシャベルがぽーんと飛んで、あらんくんたちと遊んでいた岸先生のお尻にぶつかってしまいました。
「いてっ!…あれ、どした?玄樹、泣いてるのか?」
しゃくりあげるげんきくんの顔を、心配そうに覗き込む岸先生。
「腹減ったのか?」
「ちがうよ、せんせい。ぼくがしょうのこと、しんゆうって言ったから、ないちゃったんだ」
「なるほど。そっか」
「……」
黙って俯くげんきくんの大きな目には、涙が表面張力状態。
「なあ神宮寺、もちろん玄樹も親友だよな?」
ぽん、と先生に肩を叩かれたじんぐうじ。
「ううん。げんきはしんゆうじゃない」
「えっ」
「げんきは、ぼくのガールフレンドだから」
「えっ、マジか!」
岸先生が思わず振り向くと、ついさっきまで泣いていたはずのげんきくんが、照れたように笑っていました。
「だけどガールフレンドってお前、玄樹は男だぞ?」
「うん。だってげんきは、おんなのこよりかわいいし」
「…そっ、そうか」

戸惑いを隠せない岸先生を華麗にスルーして、げんきくんを抱きしめるじんぐうじ(4歳)。

「ごめんね、げんき」
「うん。じんぐうじ、ぼくのどかわいた」
「ぼくのすいとうのジュースあげるよ」
「うん」
「あつくない?ぼうし、かぶる?」
「うん」

「……やっぱり今は尽くす男の時代かぁ」
教室に戻っていく二人を見ながら、呆然と立ち尽くす岸先生に、
「なにぼーっとしてんだよっ」
と、蹴りを入れてくるのはあらんくん。
「せんせい、れんあいは人それぞれでいいとおもいますよ」
と、頷いてみせるのはみやちかくん。

「なるほど。勉強になります!」
思わず幼稚園児に敬礼する岸先生なのでした。

今日もジュニア幼稚園は平和です。

2017/06/06(Tue) 22:38 

◆狙ってる? 

「すみませーん、休憩中にアンケートお願いします」
雑誌の撮影の合間に頼まれた、いつものアンケート。
今回のテーマは【これ、狙ってる?と思う仕草】。

「こういうのってさ、書いた内容でプライベートがバレるときない?」
神宮寺がペンを回しながらアンケート用紙を覗き込む。
「そもそも、そういう経験してなきゃ書けなくない?ってやつ最近多すぎ!」
口を尖らせて抗議するのは岩橋。
「…これって、命狙われてるとかそういうのじゃないっスよね?」
「違います」
次元を超えた岸くんの質問は、編集者に食い気味に否定されて終了。

「とりあえず、かぶらないように書こうよ。俺はねー、隣同士でご飯食べてて『えーやだあ』って笑いながらくっついてくるとき」
「あ、神宮寺にあるあるとられたー」
「ジンさんは、いっつもいいとこさらってくよな」
「いやいや他にいっぱいあるでしょ?」
「あるかなあ…。俺そういうシチュエーションになったことあんまないもん、神宮寺と違って」
「あ、久しぶりに玄樹のヤキモチいただきましたー」
「は?全然妬いてないし!」

「俺、マジで分かんね〜。こういうの」
いちゃいちゃしているじぐいわの隣で、ペンを鼻の下に挟んで天井を見上げる岸くん。
「岸くん、すぐ書ける方法があるよ」
「え、なになに?神宮寺せんせー、教えてください!」
神宮寺が、岩橋に聞こえないように岸に耳打ちする。
「えー、ずるい!なんで岸くんにだけ教えるの?」
そういうのやだ〜と机に突っ伏す、駄々っ子岩橋。

「なるほど!俺、それなら山ほどある!」
目をキラキラさせた岸くんが、サラサラとペンを走らせ始める。
「えーっと、まずは…腿の上とか肩とかにすぐ手を置いてくる、と」
あー、分かる分かると頷く神宮寺。
「それから、テーブルの上とかでさりげなく、手を重ねて触ってくる!あれ何なんだよ!」
そう叫ぶ岸くんに、神宮寺が重ねる。
「あと、俺の呑んでる飲み物とかいつも欲しがってきて間接キスするし、ジェットコースター系のときは絶対しがみついてくる」
うわあ、それ神宮寺にだけだわーと頭を抱えて笑う岸くん。

「……何かつまんない」
自分のことを言われてるとは全く気づかず、盛り上がる二人の横でふてくされる岩橋くんなのでした。

2017/03/19(Sun) 08:27 

◆マフラー 

「やばい!さむーい!」

雑誌の取材や撮影のあと、2人で夜ご飯を食べて店を出る。
3月とは思えない冷たい風に思わず岩橋が小さく叫んで、肩をすくめた。

「今日はライダース失敗だったかも」
「マフラー持ってるけど、する?」
隣を歩いていた神宮寺が、カバンからマフラーを取り出す。
「するするー」
受け取ったマフラーをさっそくぐるぐる巻いて、ハッと気づいたように神宮寺を見る。
「俺は大丈夫。コート着てるし」
岩橋は満足げに頷くと、夜の街を弾むようにして歩き出した。

大学の卒業式だったのだろう、袴姿の女の子たちとすれ違って、2人して思わず振り返る。
「袴姿の女の子っていーね」
「わかる。キリッとした感じがいい」
「そういえばさー、慎太郎がさ」
「うん?」
「俺のこと恋愛ベタだって雑誌で言っててさ」
「うん」
「俺は神宮寺がいないとダメだから、彼女ができても神宮寺〜ってなっちゃって続かないって。失礼だよね?」
あははっ、と神宮寺が笑う。

「実際どうなの?玄樹は」
俺いないと困るんじゃない?と、岩橋の顔を覗き込む。
「べつに」
借りたマフラーに顔を半分埋めて、岩橋が続けて答える。
「…そういうガチな感じで聞かないで。恥ずかしいから」
「あ、ごめん」
「……」
「じゃあ俺が、玄樹がいないとダメだってことで正解にしよ?」
「うん」
照れて、ますますマフラーに埋まっていく岩橋くん。

なんだかよく分からないけど、ガチなカップルはこんな感じなんです。たぶん(笑)

2017/03/07(Tue) 23:33 

◆ハワイにて。 

雑誌の取材で久しぶりに6人でハワイへ。
コートが必要な日本を脱出して薄着になれば、気分も自然と上がる。

「やっべ!ちょー海!」
「岸くん、気持ちわかるけど日本語変だよ」
最年長と最年少の会話にみんなで大笑い。

「岩橋くん、ごめんちょっと通訳してー」
食事をしたレストランで支払い中の雑誌のスタッフに呼ばれて、英語が得意な岩橋が戻って行く。
他のメンバーはそのままふらっと海へ。

iPhoneで、はしゃぐメンバーを撮りまくっている神宮寺。
「神宮寺って写真撮るの好きな?」
永瀬が眩しそうに目を細めながら話しかける。
「せっかくだし、残しておきたいじゃん?あとで見直せるし」
いい感じに撮れた、と満足げに写真を見直す。
「神宮寺撮ったん?見して見して」
「俺可愛く撮れたー?」
「俺も見たい!」
遊んでいた平野や海人、岸も戻ってきて、みんなで神宮寺のiPhoneを覗き込む。

「やばい、この岸くんの顔!」
「いやいや、これアイドル全開の笑顔っしょ」
「あ、俺この写真やだ!変な顔してるから消して〜〜」
「え、どれ?」
「やだ!見ないでいいから消して」
「海人、ちょっと待ってって」
みんなが騒ぎながら思い思いに神宮寺のiPhoneを触った瞬間、カメラロールからアルバムのフォルダ画面に切り替わった。

「うわ!なんか俺見ちゃいけないもの見た!」
岸が右手で思わず自分の口を塞ぐ。
「玄樹って名前のアルバムあったよね?いま」
海人が無邪気に言うと、神宮寺が慌ててiPhoneを服のポケットに突っ込んだ。
「なになに俺気がつかなかった!玄樹アルバム見せろや〜」
平野のツッコミに「そんなのないよ」と神宮寺が笑ってごまかす。
「いや、あった!なんかイワゲンが目つぶってる写真だった〜〜!!」

「ちょっと岸くんうるさいよ、何みんなで見てたの?」
岩橋の登場に、なんとなくみんな慌て出す。
「いやべつに?」
「そうそう」
「海で遊んでただけだよな」
神宮寺のiPhoneを岩橋に見られてはいけないと、なぜかみんなが共犯者の気分になって必死にごまかす。
「えー?なんか盛り上がってたじゃん。俺だけ内緒なのやだ!」

「岸くんが新しい一発ギャグやって、それでめっちゃウケてた」
永瀬の突然のフリに岸が目をむく。
「そうなんだ。岸くんやって!」
「じゃ…じゃあ俺やります!爆笑間違いなしの新作ギャグ!」

…もちろん、即席で作ったギャグが受けるわけもなく。
暑いハワイに一瞬冷たい風が吹いたように感じた岸くんなのでした。

2017/03/04(Sat) 16:55 

◆お薬 

「なあ、イワゲン元気なくね?」
公開録画のリハーサル中、岸がそわそわしながら宮近に声をかけた。
「え、そう?今日まだあんましゃべってないから」
宮近がステージで打ち合わせをしている岩橋をちらっと見る。元気がないようには、宮近には見えなかった。
「あー、俺の気のせいかも。イワゲンには言わないで。たのむ!」
「それはいいけど。神宮寺にきいてみれば?」
「なんかあいつらまたケンカしてるみたいでさ」
「またー?」
「たぶん、イワゲンがなんか怒ってるだけだと思う」
たしかに、と宮近が神妙な顔をして頷いてみせた。

二人がケンカしていると、岸にとって楽屋はかなり居心地の悪い場所になる。
「あれ、今って神宮寺だけ?」
「そう。俺だけだよ」
岸が楽屋に戻ると、うまい具合に神宮寺しかいなかった。少しだけホッとする。

「岸くん、お願いがあるんだけど」
「おう、なに?」
「これ、あとで玄樹に渡してやってくれる?俺からじゃなくて岸くんからってことで」
コトン、とテーブルに置いたのは、炭酸ジュースとのど飴。
「なんでこれ?」
「玄樹、たぶん風邪ぎみなんだよ。朝から調子悪そうじゃん?」
熱っぽいときはいつもこれだから、あいつ。
そう呟く神宮寺。

「まーいいけど…自分で渡せば?そのほうかイワゲンの機嫌なおるんじゃね」
「今回は怒ってる期間が長くてさ。岸くんお願い」
そう言うと、神宮寺はリハーサルに戻っていった。

「あれ、ここにいるの岸くんだけ?」
神宮寺と入れ替わるように戻ってきた岩橋が、いつもの席に座る。
テーブルに突っ伏す様子を見て、やっぱり元気がないように感じる岸。
「イワゲン、炭酸飲む?」
「えっ、あるの?飲む!」
ガバッと起き上がり、炭酸を受けとると勢いよく一口。
「助かるー。岸くんありがと」
「のど飴もあるから持ってけよ」
「……」
岩橋が急に黙り込んで、炭酸ジュースとのど飴を見つめる。
「どした?」
「神宮寺?これ」
「よく分かったな」
「俺、薬飲むの苦手だから、具合悪いとき子供の頃から炭酸とのど飴のセットなの。そのこと知ってるの神宮寺だけだから」
「仲直りしろよ、早く」
「…うん。ごめんね」
のど飴をポケットに押し込んで、岩橋が楽屋を飛び出していく。

「まったくだよ、ほんと」
ホッとした岸が、テーブルに置いてあった炭酸を一気飲みし、あとで岩橋にこっぴどく怒られたことは言うまでもない(笑)

2017/03/02(Thu) 23:01 

次の10件→
←前の10件
[TOPへ]
[カスタマイズ]



©フォレストページ