Short story

□声が聞きたい
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*声が聞きたい*





先程から私の手は何度も携帯電話にのびていた。けれど、何度もその手を引っ込める。この二つの動きを何度も繰り返していた。
その理由は単純なもので、日吉君の声が聞きたいからなのだ。
しかし、日吉君はそういう重いのは嫌がりそうだし、それに迷惑だと思う。
だからこそ、先程から電話も出来ずにいる。
日吉君の声が聞きたい。
学校で会ったし、帰りも一緒に帰った。それでも、日吉君の声が聞きたいのだ。
気を紛らす為にお気に入りの音楽を聴いても、まだ読んでない好きな作者の本を読もうとしても、日吉君の声が聞きたくて、全く身が入らない。
いっそのこと寝てしまおうか、とも考えた。明日になれば、日吉君の声が聞ける。けれど、それでも諦めきれず、携帯電話に手をのばした。
日吉君の連絡先を開き、電話を掛ける。心臓の立てる音が早くなる。思いの外、日吉君は三コール目で出た。


「どうしたんだ?青山。お前から電話が掛かってくるなんて、珍しい。」


日吉君の声が聞けて、心臓の鼓動が遅くなる。


「夜遅くごめんなさい、あの…、その、」
「どうしたんだ、何かあったのか?」
「た、ただ…、日吉君の声が聞きたくて…。」


そう言うと、間が空く。日吉君は怒っただろうか。きっと、怒っているに違いない。


「…いきなり、ごめんなさい。迷惑、だったよね。」
「いや、迷惑ではない。寧ろ、嬉しい。」
「本当?」
「ああ、お前から電話を掛けてきてくれたんだからな。俺も青山の声が聞きたかった。」


日吉君に優しくそう言われ、ほっと安堵する。


「たまに、俺からも電話していいか?」
「日吉君から?いいよ、寧ろ電話して欲しい。」
「そうか。これでいつでも青山の声が聞けるな。」
「うん、そうだね。」


案外悩んでいたことはちっぽけで、それでも嬉しくなる。日吉君の声を聞くだけで安心する。
やっぱり、好きだなあって思うのだ。


声が聞きたい。
──それは貴方も同じだった。

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