Short story

□握りしめる、左手
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*握りしめる、左手*




俺の部屋に今、彼女がいる。
俺のベッドの上で白い足を伸ばし、本を読んでいる。俺は携帯を弄ったり、彼女の髪を弄ったり、音楽を聴いたりする。
恋人、となって約一年が経った。
お互い、サバサバしているところがあり、二人で一緒に居ても、同じことを二人でする、ということはなかった。寧ろ、お互い一緒に居るだけで心地好く感じられたからこそ、今こうした状態なのかもしれない。
告白というものはどちらからも切り出してはいない、成り行きという言葉が始まりに似合う。
それでも喧嘩もせず、お互い好きなままで居られている。
「仁王君。」
「何じゃ?」
「手を出して?」
彼女はいつの間にか本から視線を俺に向けていた。俺は言われた通りに左手を出す。
何をするのだろうか、と思ったが、極単純に彼女は俺の手に重ねた。
彼女の手は男である俺の手よりも一回りと少し小さい。しかし、指は細くて長い。形の整った手をしていた。
「仁王君の手、大きい。」
「そうかの?青山の手は小さいの、けど綺麗な手しちょる。」
「仁王君の手の方が綺麗。テニスやってるのに指が細くて長いし、爪も綺麗。」
彼女は俺の手をまじまじと見る。
俺は彼女の手を握る。すると、彼女は驚いたような顔をしつつも、握り返してくれた。
「どうしたの?」
「何となく握りたくなっただけじゃ。」
「そう、ならもう少し強く握って?」
「おん、分かった。」
先程よりも握る力を強めると、彼女は嬉しそうに笑った。


握りしめる、左手。
──強く握りしめられた分、安心する。

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