Short story

□明日もここを通るよ
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*明日もここを通るよ*




毎日、彼とすれ違う。
彼の制服から見て、彼は四天宝寺高校に通っているのだろう。私はその反対方向の千桜女子高に通っている。
彼はいつもラケットバッグを肩に背負い、ヘッドフォンをつけたり、スマホを弄っていたりする。
両耳についているピアス。テニス部だと思われるのに白い肌。目付きが悪いが整った顔。一目惚れに近いものを彼にしてしまった。
きっと向こうは私のこと、覚えていないだろう。
彼とすれ違うのは朝だけ。帰りは一度もすれ違うことはない。それに、この朝だけしか彼のことを見たことはない。
きっと無謀なものだろうけど、朝がいつも楽しみであったりする。




私が学校をちょうど出る頃に、雨が降ってきた。今日は委員会があった為、いつもより帰りが遅くなる。傘を持ってきていたのでそれをさして、家へと帰る。
しばらく歩いていると、いつも彼とすれ違うところを過ぎる。そして家の近くまで来ると、雨宿りがちょうど出来る場所で、私が一目惚れをした彼が立っていた。
彼はどうやら傘を持っていないらしく、雨宿りをしている。きっと、このまま止まなければ、濡れて帰るのだろう。そしたら、風邪を引いてしまう。明日から会えなくなってしまう。
それは嫌だ。
今まで振るったことがない勇気を振り絞り、彼のもとへと小走りで近付く。すると、彼は私に気が付いたようだ。此方を見ている。
「これ、使って下さい。」
私はそう言って、彼に傘を差し出し、走り去った。緊張したし、元々人見知りをするから、尚更余計に。





雨の中をずぶ濡れで走った私は、熱を出し、二日間程学校を休んだ。
そして久しぶりに学校へと向かう。
彼に会えるだろうか、そう思いながら歩く。すると、雨の日に彼が雨宿りしていた場所に彼がいた。
「やっと来たんか。」
彼はぼそりと呟く。よく見ると彼の手には、私の傘があった。
「待っとたんっすわ、あんたのこと。」
「え?」
「傘、おおきに。助かりましたわ。」
そう言って彼は私に傘を渡した。
「わざわざすみません。」
「それはええんですけど。俺、財前光っていいます、あんたは?」
彼の名前は財前光というらしい。初めて知ることが出来た。
「青山碧です。」
「碧か、あんたは気付いとらんかったかもしれへんけど、あんたのことずっと見とったんすわ。」
聞き間違いだろうか、私のことをずっと見ていたと言われた気がする。そんな都合の良い話があるわけない。
「まあ、そういうわけなんで。傘、おおきに。さいなら。」
彼は、いや、財前君は軽く手を振って、私に背を向けて歩き始めた。
一目惚れなのだ。
もう、逃すことが出来ない機会かもしれない。
「あ、あの!」
精一杯、声を振り絞る。
財前君は足を止め、振り返った。
「ずっと、財前君のこと見ていました!一目惚れ、しちゃったんです、あなたに。」
私がそう言うと、財前君はこちらにゆっくりと近付いてきた。
財前君は緩く優しく微笑んで、私の頭にぽんと手を置いた。
「明日もここを通るから。」
そう言って、私に背を向けた。



明日もここを通るから
──その時にまた。

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