Short story

□ひどい泣き顔だね
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*ひどい泣き顔だね*




二年以上付き合っていた彼氏を振った。
振った理由は相手が私を必要としていなかったから。多分、彼はきっと愛されたかった人なんだと思う。けど、私も彼と同じで愛されたかった人だから、相性が悪かった。二年も長引いたのは、お互いに別れを切り出せなかったからだ。
彼のことは好きだったし、彼もそれなりには私のことを好いてはくれていたと思う。優しかったし、常に私のことを気遣ってくれた。
彼は優しいから、別れないでくれたのだと思う。
自分で振った癖に、それなりにショックは大きいもので、私は初めて授業をサボった。行く宛もなく、屋上で時間を潰す。どうせ午後の授業だけなのだし、問題はないだろう。
屋上に出れば寒くて、冬の冷たい風が余計に体を冷やす。
それでも、何だか清々しい気持ちになる。涙が自然と零れ、吐き出したいものが吐き出されていく、そんな感じがした。
「そんなに泣いたら、目が腫れるぜよ?」
後ろから声がし、私は振り向く。しかし、後ろには誰もおらず、前を向けば、顔があった。理解するのにはあまり時間はかからなかったが、誰なのかを思い出すのに時間がかかる。やっとのことで、私に声をかけた目の前の顔は隣のクラスの仁王君だということが分かった。
「に、おう君」
「おん、思い出すのに時間がかかったにしろ、よう分かったの。それにしても、酷い泣き顔じゃのう。」
「そんなに酷い顔してる?」
「おん、何で無表情で泣いてるんじゃ?」
「涙が…、自然と溢れてくるの。」
そうか、と仁王君は頷き、黙った。
泣いている理由を聞かないのはきっと、興味がないからだろう。
仁王君とは話したことはあまりない。友達が仁王君の事が好きで、バレンタインデーの日にチョコレートを渡す付き添いで話したぐらいだ。
仁王君は物凄くモテるらしい、テニス部のレギュラーで、顔も良い。飄々とした雰囲気は人の視線を惹き付けるのだろう。
涙は止まらない。それにハンカチを持っていないから、拭くこともできない。
明日は目が腫れているだろう。
仕方無い。
ぽん、と頭に何かが置かれた。何だろうと考えれば、それは仁王君の手だった。どうしたのだろうと思い、仁王君を見ると、仁王君は笑っていた。
「酷い顔じゃ、明日には目が腫れるじゃろうな。」
そう言って涙を拭ってくれた。
「ありがとう、何だかごめんね。仁王君のサボりの邪魔しちゃって。」
「たまにはええぜよ、お前さんも午後の授業はサボるんじゃろ?なら、俺の暇潰し相手になってくれんかの。」
「私で良ければ構わないけど、当分、この酷い顔のままだよ。」
本当は仁王君もサボりに来たのだろう。それを邪魔してしまった。お詫び、という気持ちで了承すると、仁王君は私の頭を優しく撫でた。
「構わんよ。それに青山とはずっと話してみたかったんじゃ。」
「あまり話したこと無かったからね。」
「良い機会ぜよ。」
「そうだね。何を話す?」
「何でもええよ。愚痴でも、好きなことでも、嫌いなことでも、最近あった出来事でも、何でも。お前さんの話が聞きたい。」
「つまらないかもしれないよ。」
「それでもええよ、聞かせんしゃい。」
仁王君はにこりと笑って、涙をまた拭ってくれた。仁王君は優しいんだな、と私は初めて知る。
今日ぐらいは誰かに甘えてもいいだろうか。


ひどい泣き顔だね
──あなたがその涙を拭ってくれるとは思わなかった

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