Short story

□寂しがり屋同士
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*寂しがり屋同士*




「では、お先に失礼します。お疲れ様でした。」
部活が終わり、俺は帰り支度を手早く済ませ、忍足先輩と向日先輩、それから宍戸先輩に挨拶をし、背を向けようとしたところ、呼び止められる。
「日吉、彼女と帰るんか?」
「そうですけど、何か?」
「自分等、どんな感じなん?いまいち想像つかへんのやけど。それにほんまに自分の彼女ぺっぴんやなあ、足も綺麗やし。」
「凄く気持ち悪いんですけど、てか、想像しないで下さい。普通ですよ、普通。」
「先輩に気持ち悪い、はないやろ、日吉。」
「いや、キモいぞ、侑士。」
「岳人まで、そんなこと言わへんで。わりと傷付くわ。」
面倒になり、俺は部室を出て早歩きで彼女のもとへと向かう。
寒い中、彼女が待っていると思うと、歩く足の速さはどんどんと速くなる。
彼女はマフラーを首に巻き、寒そうに手袋をつけていない自身の手を自身の口から出す息で温めている。
「青山、悪い、遅くなった。」
「若君、お疲れ様。」
彼女は小さく笑った。
彼女の頬や鼻は朱色に少し染まっていた。寒かったのだろう。待たせてしまったことを悪く思う。
彼女の手を取り、握った。彼女の手は冷たく、まるで氷でも触っているかのようだ。少し力をこめて握れば、彼女は握り返してくれる。そのまま歩き始めた。
彼女は忍足先輩の言う通り、自分の彼女というのを抜きにしても可愛らしいと思う。自分には勿体無いとも、思う。
彼女は俺のイメージする女とは少し違った。
女といえば、我儘だったり、休日の度にデートしたり、行事事には煩い。そんなイメージだ。
しかし、彼女は違った。休日の度にデートというものはせず、お互い都合が合えば、相手の家へ行ってホラー映画を観たりしている。我儘なんて彼女は全く言わず、寧ろ我慢をさせてばかりいる気がする。
「若君、」
ぽつり、と呼ばれ俺は彼女の方を見る。
「何だ?」
「いつもありがとう、送ってくれて。」
小さく笑う彼女は可愛らしく、つい握る手を強めてしまう。
「気にするな、只でさえ青山との時間がとれないんだからな。」
そう言うと彼女はこくりと頷いた。
しばらく歩き、彼女の家の近くまで来ると、急に彼女は立ち止まった。どうしたのだろうと、振り向こうとしたら、不意に後ろから抱き締められた。 彼女の手がぎゅ、と結ばれる。背中に押しあてられているのは彼女の額だろうか。
「どうしたんだ?」
「…いつも、送って貰えるのは凄く嬉しい。けど、帰り道は嫌い、若君と会えなくなるまでのカウントダウンだから。」
彼女がこんなことをいうのは珍しい。そして、嬉しくもある。そう思ってくれてる、それだけで物凄く嬉しいのだ。
「俺だって帰り道は嫌いだ、青山と会えなくなるからな。」
「若君、ずっと側にいて。」
「ああ、側にいるさ。」
まるで幼い子供のようにぽつりぽつりと紡がれる弱音は、彼女らしくなかったが、けれどそれも良いかもしれない。
俺だって彼女と同じことを思っている。
会えなくなるまでのリミットまで、ずっと抱き合ったままでいたい。



寂しがり屋同士
──でも弱音は吐けないの

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