Short story

□重力に引かれて
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*重力に引かれて*





私はいつも、昼休みになると図書室へ行く。それは図書委員の仕事をする為だ。
三年間ずっと図書委員の私は、毎日のように図書室へと通う。司書さんとも顔馴染みになった。
氷帝学園の図書室の蔵書数は豊富なのだが、昼休みに図書室を訪れる生徒は殆どおらず、常に静まっている。それ故か、図書委員は他の委員会と比べ、割当てられている人数が極端に少ない。
今日は書架整理の日で、今週返却された七冊程の本をもとの棚に戻す、という作業を行うのだ。
本を七冊持ち、広い図書室を歩く。
そういえば、忍足君は来ないのだろうか。
この七冊は全て忍足君が借りた本だ。二、三ヶ月前から彼は毎日図書室に来ている。そして、私の薦める本を借りたり、時には気に入った本を借りたりする。
忍足君と話したりする時間は凄く楽しくて、私はその一時がいつも待ち遠しい。聞き慣れない関西弁も、笑った顔も、時折見せる真面目な顔も、なんて無意識に好きになっていた。
初めて抱いた感情だった。
そんな感情をどうすればいいのか分からない私は、毎日彼に会うことを楽しみにしていた。
忍足君が私を意識することはきっと、無いと思う。だからこそ、この感情に向き合うわけにはいかない。だから、私は閉まっておくのだ。
最後の一冊は、脚立にのっても届くだろうかという位置にある本だ。きっと、忍足君もこれを取るときは、さすがに脚立にのったのだろう。
脚立にのり、背伸びをする。震えながらも、何とかその本は棚に戻すことが出来た。しかし、その瞬間、足元がぐらついた。
後ろに倒れた。
硬い床に叩きつけられると思い、目を瞑ったが、そんな衝撃はこなかった。ゆっくりと目を開ければ、誰かに抱えられていた。
「大丈夫か?」
私を抱えてくれたのは忍足君だった。床に尻餅をついたように、彼は私を抱えてくれたのだ。
「ご、ごめんなさい、忍足君。」
「気にせんでええよ。しかし、危ないわな、この高さは。ほんまに大丈夫か?」
「忍足君が抱えてくれたお陰で、何とも無いかな。ありがとう。」
「それなら、良かったわ。」
にこりと笑う忍足君に、何だか安心する。
そういえば、彼に抱えられている事に気付く。
「重いでしょう?すぐにどくね。」
私はそう言って、どこうとすると、抱き締められた。驚いて、声も出ない。
「俺な、青山さんのこと、好きなんや。何でこのタイミングで、とか思うかもしれへんけど、青山さんのこと好きや。」
いつもより震えた声で忍足君の口から紡がれる言葉はどれも夢のようで信じられない。
「う、そ。」
「嘘やないで。ずっと青山さんのこと好きやった。さっき抱えてた時に、抑えが利かんくなってな。嫌やったら、叩くなりしてや。」
何も言えない。
驚きと戸惑いで思考が止まる。
すると、忍足君は
「…何か言って貰えたら助かるんやけど。」
「え?あ、ごめんなさい。」
「いや、謝らんで?」
「うん…。私も忍足君の事が好きです。ずっと、好きだった。叶わないだろうって思ってた。だから、凄く嬉しい。」
「ほんま?」
そう聞かれ、私は頷く。
すると忍足君は安心したように笑った。


重力に引かれて
──これは運命なのでしょうか

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