Short story

□一緒に待ってみる?
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*一緒に待ってみる?*




大学生になり、東京へ上京した。
何故かといえば、俺の行きたい大学が東京にあるからだ。
東京の建ち並ぶビルや、雰囲気は大阪とは大分違う。東京の方がよっぽどお洒落だし、大阪より気品がある。しかし、着飾ってばかりいて、大阪よりは落ち着かない。ずっと、高級レストランにいるかのような、そんな感じだ。
飛び交う言葉も聞き慣れない標準語。
何とか普通に標準語を話せるが、それでも気を抜くとつい関西弁が出てしまう。別に無理はしなくてもいいのだけど、何となく標準語で話した方がいい気がした。一緒に上京してきた謙也は、関西弁なのだが。
そんな謙也と待ち合わせをしている。
大学から三、四つほど離れた駅の時計台の下で。
中学の時はあんなにも、ノースピード、ノーライフなどと言っていた謙也だが、人一倍時間にはルーズである。肝心な時は遅刻はしないものの、友人との待ち合わせの約束などは八割以上は破られるのだ。
時刻は午後一時七分。待ち合わせの時間を七分ほど過ぎている。
「ほんまにルーズやわ、アイツは。」
ぽつりと俺は文句を溢した。すると、驚いたことに返事が返ってくる。
「貴方も誰かを待っているんですか?」
ふと声をかけられ、ぱっと振り向く。軟派かと思ったが、声をかけてきたのは、彼女らしい。どうやら自身とあまり年齢の差は無さそうだ。
少し驚いたが、無視をするのもなんだと思い、俺は返事を返す。
「そうなんですよ、待ってるんですけど、中々来なくて。あんたも?」
「ええ、友人との待ち合わせなんですけど、彼女、時間にルーズで。」
それを直せば、良い子なんですよ。と苦笑混じりに彼女は言う。どうやら、俺と同じ状況らしい。
「なんなら、一緒に待ちません?ひとりでぼーっと待っているのもなんですし。私、青山っていいます。」
「俺は白石です。それいいですね、ちょうど暇してたんで。」
細心の注意を払い、標準語を意識し、話す。
変わっている子だ、と不思議に思う。しかし、同じ大学のサークルの子とは違い、話しやすかった。普段なら、誤魔化すのだが、不思議と了承してしまった。
「白石さん、もしかして関西の方の人ですか?」
「えっ?何で分かったんですか?」
「さっき、私が声をかける前に口調がそうだったんで。」
「そうなんですわ、大阪の方から来たんですわ。標準語に慣れようと思うておったんですが、やっぱり難しいですね。」
「関西弁の方が良いと思います、親しみやすくて。」
「ほんまですか?それは嬉しいです、おおきに。」
そう言うと、彼女はふふ、と笑う。
その笑い方と仕草が上品で、可愛らしい。
そこから待っている友人の話になる。彼女と話すのは何だか楽しく、謙也のことを忘れそうになった。
彼女の友人が先に来た。
「ほんまに助かりましたわ、おおきに。」
「いえいえ、此方こそ。」
「ほな、また、っていっても、もう会わんと思いますが。けど、青山さんとはまた近いうちに会う気がするんですわ。」
「私もです。見掛けたら、声でもかけてくださいね?」
そう言って別れた。
謙也を待って三十分後、謙也は来た。
「白石!堪忍!」
いつもはどついているのだが、今日は何だか気分が良く、どつかなかった。
また会えるだろうか。

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