Short story

□ずっとずっと、恋してる
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*ずっとずっと、恋してる*




今日、二月十四日はバレンタインデーというもので、毎年毎年、俺は憂鬱な気持ちになる。
何故なら、ただでさえ生徒が多く集まるテニスコートに、その倍の女子生徒が集まるからだ。鳥の首を絞めたような奇声は俺の耳を壊す勢いだ。おまけにテニス部レギュラーは、跡部部長を筆頭に忍足先輩、芥川先輩と滝先輩、それに鳳などと、見た目麗しく、当然、彼等にチョコレートやらの菓子を渡している。おまけに、跡部部長と忍足先輩は満更でもないような顔をしていたりするのだ。
彼等が誰から何を貰うなんていうことはどうでもいい。ただ、テニスコートの周りで騒ぐのは止めて欲しい。ただでさえ冬の朝は苦手なのだ。いつも以上に苛々する。


「ちっ。」


女子生徒の歓声という名の奇声があがり思わず舌打ちをする。


「なんや嫉妬か?見苦しいで。」
「嫉妬なんかじゃありません、恋人いますし。ただ、見学者がうるさいので思わず舌打ちしただけです。」
「たまにはええやないか、彼女おるんし、構わへんやろ。」
「そういうことじゃありません。」


俺が不機嫌な理由は見学者等がうるさいから、という理由だけではない。
何故なら、青山が学校を休むと、朝メールがきたからだ。風邪らしいのだ。
彼女の顔を見れないというのは最悪でしかない。
苛々が募るばかりだ。

俺は放課後の部活を休み、何か栄養をつける為にアイスクリームやら、ミネラルウォーターやら、風邪薬を買い、彼女の家を訪ねた。
彼女は忍足先輩と同じく、一人暮らしな為、親は勿論家にはいない。
インターホンを鳴らせば、ドアがゆっくりと開かれた。彼女は驚いたように、微睡んだ目を見開く。


「日吉君、どうしてここに?」
「お見舞いに来た。上がってもいいか?」


そう聞くと彼女はこくりと頷き、俺に上がるように促す。
彼女の部屋は何度か来たことはあるが、いつもきちんと整理整頓された部屋だ。
どうやらずっと眠っていたのだろうか、ベッドの脇にある棚に、もう温くなったであろうスポーツドリンクが置いてある。


「わざわざごめんなさい。」
「気にするな、安静にしとけ。アイスクリームを買ってきたから、好きなときにでも食べろ。風邪薬を一応買ってきたのだが、必要だったか?」
「ありがとう。風邪薬はちょうど無くなるところだったから、助かったなあ。」
「そうか、なら良かった。ほら、寝とけ。」


彼女をベッドに寝かせる。
彼女の髪を梳かすように撫でる。


「日吉君が来てくれて、凄く嬉しい。本当にありがとう。」
「気にするな。それに…、お見舞いというのは建前で、本音は青山の顔を見たかったんだ。」


そう言うと、彼女はにこりと笑う。


「珍しいな、そんなこと言ってくれるなんて。」
「そうか?」


うん、と彼女は笑い混じりに頷いた。
彼女が眠りについた後も、俺はしばらくその場に留まった。彼女の顔をしばらく見ていたかった。
彼女以上の人等にはきっと巡り会えないだろう。
ずっと、俺は彼女に恋したままなのだ。



ずっとずっと、恋してる
───一目見ただけで、心穏やかになる

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