Short story

□伝わる感触
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*伝わる感触*



冬というのはやはり冷たく、寒く、心も何もかも、全てが凍え、乾いている。
とはいえ、私の心が乾いているわけでもないのだけど。
図書委員の仕事で、放課後に残っていた私は、外とは比べ物にならないくらいのどかで温かな、暖房の利いた図書室にいる。
放課後の図書室を訪れる生徒は殆どいない。その癖、何故か放課後まで図書室は解放されている。
私は一年生からずっと図書委員だが、放課後の図書室に訪れたことがあるのは、柳君と柳生君ぐらいだ。いや、そういえば、珍しく仁王君も訪れたことがあった。本を借りるでもなく、何となく気ままに、サボりに来たような感じだったのだが。
図書委員というものは暇ではあるが、やはり楽なものなのだ。友人達は図書委員の仕事を嫌がるが。
ふと、ガラガラと図書室の戸が開く音がする。
柳君だろうか。それとも柳生君か。もしかしたら、またサボりに来た仁王君かもしれない。
なんて予想しながら、音のした方を見ていると、顔を出したのは仁王君だった。
仁王君は私のいるカウンターまでやって来た。いつもなら、そこらをふらふらとしているのだが。
「青山は、ずっと図書委員なんか?」
「一年生の時からずっと図書委員。」
「へえ。」
仁王君はいつもとは違い、本来なら図書委員以外は立ち入り禁止のカウンター内に入って来た。他に誰もいないのだから、構わないのだけど 。
仁王君は余っているパイプ椅子に腰をかけた。
「本来、カウンターは立ち入り禁止。それに、図書室にまたサボりに来たんだ。」
「居心地がええんやもん、しょうがないきに。」
「確かに図書室は暖房が効いていて暖かいからね。」
「おん。」
そう言うと、仁王君はぴたりと話さなくなる。
気分屋のイメージが強い仁王君だから、何かの気紛れなのだろうと私は思う。
しかし、視線がずっと私の方を向いている、というのは些か無視をし辛いものがある。その視線を意識しないように名簿のチェックなどを行うが、やはり気になる。
それでも、やはり仁王君の気紛れなのだろうと思い、それについては問わずに仕事に手をつける。
いずれ、仁王君は気が済めば、飽きて部活に戻るなりするだろう。
沈黙、は何分間続いただろう。きっと二十分ぐらい続いていたのではないだろうか。
沈黙を破ったのは、ふと頭にのった重みだった。
何だろうと、振り向けば仁王君の手が自身の頭にのせられていた。
「青山は頑張り屋さんじゃの。」
「そんなことないよ、ただ仕事をやっているだけ。」
「それでも偉いけえ。」
仁王君は私の頭を優しく撫で、笑う。
その笑顔に少し、どきりとした。そして、優しい手つきに、元気が出る気がした。
「ありがとう、仁王君に撫でて貰えると元気が出る気がするよ。」
「ほんに?なら、いくらでも撫でちゃる。」
そう言って仁王君は私の頭を撫でた。
「仁王君って優しいんだね。だけど、女の子に簡単に撫でたりしたら駄目だよ?勘違いしてしまうもの。」
「勘違いして貰わんと困るきに、お前さんには。」
その言葉の意味を理解するには時間がかかったのだった。

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