Short story

□好き
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*好き*




俺の彼女は綺麗だと思う。それは贔屓目を差し引いても、百人が百人、綺麗だと言うだろう容姿をしていた。
自分には勿体無いなどと思うのだ。
だって見ていればわかる。今日は部活が全て禁止な日である為、下校で混み合う廊下。けれど、彼女のことは簡単に見つけられる。周りにいる女よりもずっと綺麗で目が惹かれる。
早く彼女の元に行きたくて、人の群れの流れを掻き分けるようにして向かう。
やっとのことで彼女の元へと着く。
「来なくても、私から行ったのに。けど、何だか嬉しい。」
小さく彼女は笑った。普段、俺と同じようにあまり笑わない彼女だが、笑うと凄く幼く見える。幼くて、可愛らしい。
「はよ帰ろ。」
「うん。」




「光と一緒に帰るなんて、久しぶり。」
「せやな。」
彼女は部活に入っておらず、俺は中学からやっているテニス部に入っている。だから、彼女と下校をするのは久しぶりなのだ。
標準語である彼女は、なんでも両親の都合で引っ越してきたらしい。
久しぶりなだけあって、少し気持ちが浮わついている。
「手、繋いでもええ?」
「うん。」
彼女はこくりと頷く。俺はゆっくりと彼女の手を握る。彼女の手は俺と同じくらい冷たく、俺よりも細く小さい。少しでも加減を間違えたら、折れてしまうのではないかと思う。
けれど、そんなことはなかった。彼女は無表情なのとは裏腹にぎゅ、と強く握り返した。
それが何だかむず痒くて、嬉しくなる。そして、やっぱり好きだなあと思う。
好き、だなんて口には出さない。けれど、やっぱり彼女のことが好きだ。毎時間、毎分、毎秒、彼女のことが好きという気持ちが強くなる。
「今日、俺の家、誰もおらんから来る?」
「久しぶりにお邪魔しようかな。」








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