Short story

□分け合う冷たさと温かさ
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*分け合う冷たさと温かさ*



財前君からたまに一緒に帰ろう、という内容のメールが来る。それに了承のメールを返すと、学校の昇降口で待っていて欲しい、と返って来た。
そして今、私は彼の部活、テニス部が終わるのをひっそりと冬の昇降口で待っているのだ。
彼と私は所謂恋人同士というものだけれど、毎日登下校を共にする訳でも、毎日メールのやり取りや電話をする訳でも、たまの休日にデートをするわけではない。
彼の部活が終わるのはいつも遅いし、朝練があるわけで、毎日一緒に登下校は出来ない。メールだって、一緒に帰る時のお誘いの手段としてしか使わないし、たまの休日はお互いの家に遊びに行くということぐらいしかない。
けど、恋人らしいことを全くしない、というわけでもない。手を繋いだり、キスをしたり、ということぐらいは済ませている。勿論、男女の仲でするようなことも。
友人にその話をすれば、友達以上恋人未満だと言われてしまったが、別に気にはしていない。
ただ、彼と一緒に居られる時間が増えたらいいのにと思ったりもするけれど、それは心のうちに閉まっておく。
「青山、」
ふと名前を呼ばれる。それと同時に背中から覆い被せられるように抱き締められた。
「財前、君。」
「堪忍、遅くなってしもて。寒かったやろ。」
そう言って彼は私の手をぎゅ、と握った。けど、私の手より彼の手の方が冷たくて、部活を頑張ったのだなと思う。
「お疲れ様。私より、財前君の手の方が冷たい。ただでさえ冷たいのに、余計に冷たい。」
「抱き締めて暖めてやろうとか思ったんやけど、逆に俺が青山に温められとるわ。」
彼はくすくすと可笑しそうに笑う。
無愛想だなんて言われる彼だけど、彼はわりと表情を変えるのだ。
彼の手を両手で包み込む。すると彼はまた、温かいわ、と笑う。
「何時までもこうしてたいわ、けどそろそろ帰らないアカンな。」
彼はそう言って私から離れる。
そして彼は鞄から、缶を二つ取りだし、片方を私にくれた。彼がくれたのは、ホットココア。わざわざ買ってきてくれたのだろうか。そう思うと、嬉しくなる。
「ありがとう、寒かったから丁度良いや。財前君は…、善財なんだね。」
「どういたしまして、って言っても、待たせたお詫びやけどな。善財やろ、やっぱり冬は。」
そう言う彼に、本当に善財が好きなのだなと思わされる。そして意外なところでもある所為か、自然と笑ってしまう。
「そろそろ帰ろか。」
「うん。」
彼と手を繋ぐ。
やっぱり彼の手は冷たくて、ひやりとする。けど、どこか温かい、そんな気がした。





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