Short story

□ファジーな朝
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*ファジーな朝*



ふと、寒くて目が覚めた。ゆっくりと瞼を開ければ、目の前には彼女の顔がある。
腕に重みを感じると思えば、彼女の腕枕と俺の腕はなっていた。
彼女は気持ち良さそうに眠っていて、普段は済ました顔とは違っていて、可愛らしく思え、自然と口元が緩んだ。
「困ったな…。」
このままでは起きれない。気持ち良さそうに眠る彼女を起こしたくはないが、朝の稽古もある。
俺はそっと彼女の頭から自身の腕を退かして、布団から出た。

稽古が終わったのは六時半頃。部屋へと戻ると彼女は起きており、服も着替え終わっていた。
「お疲れ様。起きたらいないんだもの、驚いたよ。偉いね、朝早くから稽古だなんて。」
「一日でも欠かすと鈍ってしまうからな。」
「眼鏡、かけてるのなんて珍しい。」
「学校ではあまり掛けないからな。」
「眼鏡掛けている若君も格好いい、凄く似合っていると思うな。」
彼女はさらりとそういうことを言う。恥ずかしがるわけでも、からかうような口振りでもなく、普通の会話と同じように。
格好いい、そう言われるのは嫌いではない。寧ろ好きな女から言われるのだから、尚更のこと。
「若君、」
「なんだ?」
おもむろに両手を、彼女の両手に包み込まれた。ほんのりと温かさが感じられる。
「若君の手冷たい。手が悴んでいるでしょう。本当に稽古、頑張ったんだね。」
「寒すぎて気付かなかったな。」
彼女はくすりと笑って、俺の両手に温かい息を吹き掛ける。
その行為は想定外で、可愛らしくて、つい抱き締めてしまった。そして額にキスをすると、彼女はくすぐったい、と呟く。
「あんまりそういうことはするな。」
「嫌だった?」
「…嫌いではない。」
ふふ、と彼女は可笑しそうに笑う。そんな彼女が愛しくてつい、口元が緩む。




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