Short story

□痩せ細った愛
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*痩せ細った愛*




ぞろぞろと、大きなラケットバッグを持ったテニス部員達が校門へと帰宅の為に向かう。
もう6時半を過ぎていて、確か冬の完全下校時間は6時半ジャストではなかったか、とうすぼんやりと思い出す。
まあきっと、全国大会出場レベルのテニス部には、そんな規則も甘やかしてしまうのだろう。
冬の風が肌を刺すように吹き、指先や体の芯までを冷たくする。
こちらへ来るテニス部員の中に目的の人物を探すが、見当たらない。
きっと彼はレギュラーだから、遅いグループに混じって来るのだろうか。
そんなことを思いつつ、空をぼーっと見る。星がたくさんあって、どの星がどの星座だなんて、オリオン座とかぐらいしかわからないけども、綺麗だなあと思うぐらいは許してほしい。
不意に、肩をトントン、と叩かれる。
誰だろう、彼だろうかと思い振り返れば、残念目的の彼ではない。
テニス部の部長である幸村君であった。


「寒い中毎度ご苦労様だね、仁王の彼女さん」


にっこりと笑う幸村君の鼻は寒さで赤くなっていた。
彼よりも部長が早いのは何故なのかと思うが、まあどうでもよいことだ。


「部活お疲れ様、幸村君」
「仁王ならもうそろそろ来るよ、ほら、来た」
「あ、ほんとだ」
「寒い中待つのは良いけど、風邪を引いたらダメだからね?」
「立海部長の命令とあらば」
「ふふっ、それならよしとしよう」


クスリと笑い、それから、「じゃあね、また明日」そう言って幸村君は帰って行った。
目的の人物ーーーー仁王君は、丸井君や柳君と一緒に歩いてきた。寒そうにマフラーに顎をうずめ、幸村君と同様、真っ赤なお鼻のトナカイさんのように、鼻の先を赤く染めていた。
仁王君はこちらに気付いているのだろう。けど手を振るようなことをしなければ、急いでこちらに来るようなこともしない。
丸井君が私に気付いて、


「仁王の彼女じゃん。悪いな、遅くまで待たせちゃって」
「ううん、大丈夫。部活お疲れ様」
「先ほど精市にも言われたと思うが、風邪や体調だけは壊すなよ?」
「よく幸村君が言っていたことがわかったね」
「ふっ、やっぱりそうか」


それから丸井君や柳君たちと混じり、私も帰る。丸井君や柳君は話しかけてくれるが、仁王君は丸井君が話しかけても、反応が素っ気ないままだった。そして、しばらくすると、丸井君達と、私達とで帰る道が分かれた。
仁王君は相変わらず黙ったままで、私も大してお喋り好きでもないから、互いに無口のままで、仁王君のお家へと向かう。
仁王君はここ最近大抵そうだ。不機嫌なわけではない。ただ、喋らないだけ。

ああ、先が見えない。

仁王君のお家へと着く。仁王君の家族は家にはいない。
靴を脱いだかと思うと、仁王君に手首を掴まれ、仁王君の部屋へと連れて行かれる。手首を掴む力が強いから、痛い。
それからベッドに倒され、シャツのボタンをひとつひとつ、ネクタイをしゅるりととる、下着のホックを外す、胸を揉みしだく、、、。



事を終え、彼はぐっすりと眠っている。私は起きて、下着を身につけ、彼の寝顔を見る。
情事をしている間、仁王君は珍しく「愛しとる」「好いとう」を沢山言っていた。
今更、そんなことを言われても、延命措置のような言葉をかけられても、傷口に塩を塗るようなものなのに。
もう私達には先が見えないのに、そろそろ終わりにした方がいいのに。仁王君はまだ自由にしてくれない。言葉で、身体で、私を自由から縛り付けるんだ。
付き合いたてはこうじゃなかった。二人で笑うことも多かったし、幸せだなんて思うこともよくあった。もっとお互いを好き合っていたし、身体だけでなんかなく、体裁だけでもなかった。キスをされるだけで嬉しくなったあの頃の思いは、とうに色褪せていっていた。
もう少し、落ち着いて欲しかったし、優しくして欲しかった。今までの子達同様に、身体だけで終わっていく関係など御免なの。
今夜が明けても、すぐにいなくなるわけじゃないけど、もうあの頃には戻れない。
身体だけでいいなんて思う貴方に腹が立ってしかたないのに、別れが切り出せないでいるのは何故なのかしら。

きっと私と別れても、すぐに貴方には拠り所が見つかると思うけど、本当の意味で貴方に尽くしてくれる人もいないし、守ってくれる人もいない。



ーーー終わるのを待つだけなの。

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