Short story

□ペースはマイペース
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*ペースはマイペース*




午後三時半、俺の部屋にて、、。



スマホをいじり、ベッドに横になる俺。
俺の大きなヘッドホンで音楽を聴く彼女。

俺と彼女はわりと似ている。無口で感情があまり顔に出ず、人と関わるのが少し煩わしい。そして、マイペースなところも。
今日だって久々に俺の部活が休みで彼女と過ごしているのに、俺と彼女は互いに別行動をしていた。
特に俺は文句があるわけではない。
ただ、この前何処ぞの浪速のスピードスターとやらに彼女と歩いているところを見られた。その後日、自分は彼女さえいない癖に、あんなどキツイ金髪でピカピカしているアホの癖に、
『自分と彼女はごっつ恋人らしないな』
と言われたのだ。恋人らしいってなんや、自分の価値観で決めんなや、と思ったのだけれども、確かにそれは言えている。
きっとあの人にとっての恋人らしいってのは、手を繋いだり、仲良さげに会話をしていたりしていることなんだろう。

だが、俺にはこの感じが丁度良いのだ。

ふと、彼女を見る。
彼女は瞼を閉じながら、ヘッドホンに手をあてて楽しげに音楽を聴いていた。
珍しく彼女が歌を口ずさむ。高過ぎず、低過ぎず、丁度良い高さの声が微かに俺のところまで届く。
思わず見惚れた。
小さい頭に大きなヘッドホンをしている彼女はかわいい。そして、瞼を閉じながら歌を口ずさむ姿もかわいい。普通に、ただその場にいるだけでもかわいい。どうしてこんなにもかわいいのだろうか。
贔屓目?そんなの上等だ。
俺にだけわかればいいのだから。


「どうしたの、こっちをそんなに見つめて」


ベッドホンをとり、不思議そうに、彼女は聞いてきた。
中学から関東から大阪に越して来た彼女は、関西弁を喋らない。さして問題はないのだが。
俺と似て顔に表情が出にくい彼女の表情は、いつだって無表情だ。そして今も例外ではない。


「ん、」
「どうしたの?何かあった?」
「いや、歌を口ずさんどったから」
「あー、うるさかったでしょう?ごめんなさい、気を付けるね」
「そういうわけやないて。大抵他人の歌っとる声はうるさいけど、自分のは全くそうは思わんかった」


本当のことだ。
俺の耳に丁度良い。
謙也さんが歌おうものならどついたり、しばいたりするし、不愉快な歌声だったらきっと聞きもしない。


「彼女特権?」
「あー、そうかもな。目に入れても痛くないほど、自分はかわいいんやからな」
「ふふん、なにそれ。さすがに目に入れたら痛いよ」


彼女は面白い冗談と思ったのだろう、ふふんと珍しく笑う。
これも本当のことだ。
彼女を目に入れても、きっと痛みなんて感じないだろう。かわいすぎて、好きすぎて、食べてしまいたいぐらいだ。
俺は起き上がり、ベッドに普通に座り直す。そして両手を広げた。
彼女は俺の意図を察してくれたのか、俺のところまでやってくる。そして、抱きついて来た。
ふわりと、シャンプーの匂いがした。
キツすぎず、丁度良い匂い。
部長の好みのタイプもわからなくはないかもしれない。シャンプーの香りがする女の子。確かにそれは良いかもしれない。


「今日の財前君は甘えたなの?」
「ん、なんやそれ」
「財前君はあまりこういうことしないでしょ?だから、甘えたなのかなって」
「嫌?」
「ううん、全く。寧ろ大歓迎」


そう言って笑う彼女がかわいすぎて、キスをする。触れるだけのキスをし、段々と深くする。



ーーかわいすぎて食べちゃいたい。

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