Short story

□レイニー、傘はいるかい
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ぽつ、ぽつ、ぽた、ざざざっー。

雨が降ってきた。天気予報で午後から雨が降ると言っていたから、鞄には折りたたみ傘が入っているので傘の心配はない。


「傘は持っとるか?」
「うん、持ってるよ」
「用意周到やなあ、偉いで。やけど、その傘の出番は残念ながらないで」
「なんで?」
「相合傘するからや」


そう言って白石ははにかむように笑い、私に傘の中に入るように言う。
これは無駄じゃないのか、と聞けば
「相合傘が出来るから無駄やない」
なんて、眩しいくらいの笑顔で屁理屈を言ってくる。
はあ、とあからさまに溜め息を吐けば、そんな面倒そうにするなと悲しそうな顔をされてしまったので、白石の傘の中に入った。


「相合傘なんて、あの日を思い出すなあ」
「あの日?ああ、高一の時の話か」
「あの日も俺らは相合傘しとったな。自分が傘を忘れとって」



私が傘を忘れて相合傘。



***



あの日は朝から快晴でとても清々しい1日の始まりだった。しかし、そんな清々しい始まりだったものの、放課後、保険委員会があった。幸いなことに、片割れの男子は真面目な眼鏡の子で、他のクラスみたいに、片割れが不足するようなことにはならなかった。
その委員会は30分弱で終わり、のそのそと生徒たちは帰り始めるか、部活のある者は部活へと向かう。
私は部活には所属していないから、昇降口へと向かう。下駄箱で外履に履き替え、昇降口から出ようとすると、いきなりざざざっー、と雨が降ってきた。
天気予報では、私のお気に入りのお天気お兄さんが、午後から雨が降ると言っていたから、それを信用して水玉の地味な折りたたみ傘を持ってきていたので、濡れて帰る必要はない。
だが、可哀想に、傘を持ってきていないのだろう男子生徒達は鞄を頭の上に掲げながら、校門へと駆け出して帰って行った。
そんな男子生徒の後ろ姿を私は見送った。そして、折りたたみ傘では防げない強い雨がもう少し弱まるのを待っていた。

ざざざっー、ざざざっー、ざーっ。

明日の宿題は何だっただろうか、そんなことを考えながらボーッと私は突っ立っていた。


「自分、傘忘れたんやろ?俺の傘に入りや」


後ろからそう声をかけられて、咄嗟に振り向くと、同級生であろう男子が傘をさしだしてきた。ロマンチックの欠片もないような、そんな色の傘を持っているのが不釣り合いな、渋い緑色の傘。
良心の塊でもあるかのような笑顔を向けられてしまった。そんな笑顔を、
「傘持っているので大丈夫です」
だなんて、断る事も出来なくて、


「ありがとう、助かったよ」


なんて言ってしまう私も大概お人好しなのかもしれない。
ついでに男子について付け足すならば、100人が全員口を揃えて「かっこいい」というような容姿だったものだから、断れなかったのかもしれない。
その男子はこれまた笑顔通りに優しく親切で、傘に入れて貰っただけでなく、家まで送って貰ってしまった。



***



「あの時、私、傘忘れてなかったの」
「え、忘れたんやなかったの?」
「雨が強くて、折りたたみ傘だと厳しいかなって思って、弱くなるのを待ってたら、白石が入らないかと声をかけてきたでしょう?」
「おん、せやったな」
「なんか断り辛くて」


嘘ついてごめんね、と謝れば、白石は、
「けどあの相合傘のおかげで、俺と自分が出会えたんやから、結果オーライや」
なんて笑った。
結果オーライだなんて古い、と私が笑えば、白石はまたさらに笑う。





レイニー、傘はいるかい?
ーー本当は忘れてなかったの。





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