作品集〜短編〜

□僕の声(本音)はお前に届かない。
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1.僕の声(本音)はお前に届かない 
(一カラ。切ない) 


呼吸するのが辛い。 

息を吐き出したくても、 
何かが喉につっかえてそれもままならない。 


「 うるさい、クソ松!」 



パーカーの胸のあたりを掴んでやっと出た言葉は棘を含んだもので、眼前に広がる青い同じパーカーを着たそいつに突き刺さる。 


一瞬だけ悲しそうに笑ったそいつは、またかっこつけた表情に戻り、 


「 フッ、マイブラザー。この俺が輝いているから妬いた...」 


またかっこつけたことを言い始めたから一つ下の弟に卍固めさせておいた。 




その日の夜更け。 
僕、松野一松はとぼとぼと外を歩いていた。 


特に理由なんてない。 
いや、あるとしたら確実に六つ子の次男である兄の松野カラ松だろう。 


あいつを見るとイライラして、 
苦しくて、でもそれと同時に嬉しくて、恥ずかしくて。 


最初はイライラしてるだけで、 
あいつが嫌いで苦手だからそういう感情になると思っていた。 


いや、思い込もうとしていた。 


最初からわかっていた。 

これは、この想いは恋、なんだと。 



僕はため息をひとつついて薄暗くついた街灯の下で身体を縮こませている三毛猫を見つけた。 



そして、その傍らに座り込んでみるとその猫は僕に擦り寄ってくる。 



きっと、こいつにも家族がいるんだろうな。と、思い、頭と口元を撫でてやると猫なで声を出して気持ちよさそうに目を閉じた。 



僕は末っ子のトド松みたいに甘え方を知らないし、素直じゃない。 



好き、の言葉もあいつの前では出せなくて、 
その言葉が僕の喉につかえる。 



そして、そのつっかえたの言葉せいで呼吸ができなくなって涙が溢れ出す。 



クソ松、気づけよ。 

お前、本当は分かってるんだろ? 
僕の気持ちに。 

本当に、酷い奴だな。 

棘のある、偽物の言葉しか出せない僕と同じで。 




「 こんな所にいたのか、マイブラザー」 




俯き涙を流していたら不意に聞こえてきた自信過剰な奴の声。 



軽くパーカーの袖で涙をぬぐい、 
視線をその人物に向ける。 


何故かサングラスをしたそいつは僕の目の前にしゃがみ込み、僕を目を合わせる。 



「気がついたらいなくなってたんだ、心配するだろう?」 



と、言いながらカラ松は手に持ったマフラーを僕の首に巻いてくる。 



「ほんっと...うざい」 



「うざい、か。俺にとっては褒め言葉だ」 




ああ、こいつは本当に僕のこいつに抱いている気持ちを知っている。 



三毛猫はにゃーとひと鳴きすると、駆け出して一件の家に入っていった。 



「あの猫も自分の家に帰ったんだろうな。 
一松、俺達も帰ろう。俺達のマイホームに」 



「......わかったよ...」 



本当にこいつの優しさは残酷だ。 


僕をもっともっと惨めにさせる。 



でも、もっと残酷なのは...。 




こんな曖昧な関係でもいい、と。 
あいつの気づかないふりをしてくれている優しさを利用している僕の方なのかもしれない。 






END

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