作品集〜短編〜
□月見草
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「トド松くん、トド松くん。
もう帰るよ」
「んんー…」
今日は同級生のトド松くんとクソ助くんと合コンに来ている。
が、そのトド松くんが泥酔して眠ってしまった。
「ねえー、あつしくん。
なにもなし男なんて放っておいて、飲みなおそうよー」
女の子たちとクソ助が二次会に向かおうと、部屋を出ようとする。
「んー、ごめん。やっぱり僕、こいつのこと心配だから家に送っていくよ。今のこいつ男でもノコノコついていきそうだしね」
女の子たちはノリ悪いとブーブー言っていたけど、僕はごめんね、また埋め合わせするからと適当に流す。
クソ助にあとは頼む、と伝えると背中をぽんと叩かれる。
「…まあ。がんばりなよ」
「うん、ありがとう」
それから1言2言交わし、ほかのメンツが個室を出たところで座布団を抱き抱え、頬をほころばせすやすやと眠るトド松くんの横に座る。
「ほら、トド松くん。帰るよ」
座布団を引き剥がすと軽く呻き声をあげて僕に抱きついてくる。
「……本当、参っちゃうな……」
トド松くんのこういうことを無意識でやってしまうことにも、
こんなことでも敏感に感じ取り、反応してしまう自分の下半身にも。
そう、僕はトド松くんが好きだ。
友愛という意味でもそうだが、それ以上の恋愛感情というものを彼に対して抱いている。
こんな気持ち普通じゃないことは痛いほどわかっている。
わかっているのに、どうしても君を求めてしまうんだ。
「ほら、帰るからしっかり捕まって」
「んー…」
完全に脱力した彼をおぶさり、キャッシュカードで会計を済ませると店を出る。
「…あ」
その店先の道路に咲いていたのは1本の雪見草。
「こんなところに咲くんだ…」
僕はあることを思いつき、先に暖房がかかった車の助手席にトド松くんを寝かせ、先ほどの雪見草のところに戻る。
そして、
「ごめんね。少し、力を貸してくれるかな?」
意味があるのかは知らないがそう雪見草に話しかけ、そのうちの1本を手折る。
「想いを伝えることができないなら、これくらいはいいよね」
そう言いながら、車の運転席に座りそれをトド松くんのアウターの胸ポケットに忍ばせる。
完全に熟睡した彼は幸せそうだ。
「ごめん、好きになって。ごめん。
もう、これで終わりにするから…忘れるから…許して」
そして、僕は眠る君に触れるだけのキスをした。
雪見草
(花言葉は、打ち明けられない恋)