TOA 1

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ジェイド一行がケセドニアの宿に帰ってきたのは日付が変わってからだった。



「お疲れ様です、大佐。
ランチェスター将軍は何とおっしゃってました?」

「サラ、出歩いても大丈夫なんですか?あぁ顔色が戻ってますね。

将軍の副官が報告をしにグランコクマへ至急向かいます。こちらからは実際に目にしたギースを出しましょう」

「大佐は、一緒に戻らないのですか?」

サラは予想とはずれ、表情には出さないが小さく驚いた。ユナの結婚式を止めるには今出ないと間に合わない。


「やることがたくさんありますからね。マルコと私で行動を共にします」

「……ユナさんの事は宜しいのですか?」

サラはジェイドの内心を探るように見つめた。
ジェイドのポーカーフェイスは崩されなかったが、少し間があいた言葉から若干の迷いを感じ取れるようだった。

「……優先すべき事はこちらだと、陛下には予め伝えてありますので大丈夫でしょう」


(陛下の心配にすり替えるということは……)

サラはジェイドの言葉から深く心情を読み取った。もう何年もこの上司の腹を探っている。
「ギースと共にグランコクマへ帰らせて下さい。
よければ私にユナさんのことをお任せいただけませんか?」

得意ではないが、少し口角をあげジェイドに笑顔を見せた。

そんなサラの目をまじまじと見つめ、すぐには答えを出さないジェイドだった。
途端にサラは緊張が走る。


「無理してませんか?貴女の作り笑いは私には効きませんよ」


サラはその表情のまま固まった。
しまった、と。
自分の余計なお節介は大佐にばれている失態に、恥ずかしさと情けなさが加わり言葉を失った。

「……」

珍しく頬が染まり、見つめられるジェイドから逃げるように視線を外した。


「……まだ完全に体は回復してないのでしょう?」


「え!?……は、はい。申し訳ありません、無理はしないようにします。
ぜひ行かせて下さい」


体調の事だと気付いたが時は既に遅く、真っ赤になった頬を隠すようにお辞儀した。


「仕方ないですね、ではギースのお守りと陛下の手助けの為にグランコクマへ向かって下さい。

出発は3時間後、港の高速艇前です」


「はっ」

ため息まじりだが、事務的な用件を伝えたジェイドの顔色を伺うようにサラは顔をあげた。

見ても表情だけでは何の感情も
読み取れないと諦めたサラは礼をしてすぐに準備に向かった。


(自分なんかじゃ大佐のお心を乱すなど到底不可能なのよね、結局……。

せめてお役に立てる事が精一杯なだけ。欲張ってはダメよ)

先程まで高ぶっていた気持ちをまた抑え込み、軍人の頭に切り替えた。



廊下に一人残されたジェイドが眼鏡のブリッジを上げ、悩ましげにため息をつく姿を誰も見ることはなかった。
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