TOA 3
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その後二人で泣き腫らした瞼で部屋から出た時、スザンヌは懐かしい光景のようと笑った。喧嘩した後のお約束、温かいハチミツミルクを作ってくれたスザンヌは何も聞かないでいた。ただ、落ち着かせてくれることにシンは深く感謝するのだった。
───「おめでとうございます、我がマルクト軍の圧倒的勝利ですな」
ゼーゼマン参謀総長が臣下の礼をとり、マルクトの皇帝、ピオニー9世を称える。
「あぁ、ジェイドが俺の初戦を飾ってくれた。戻ったら盛大に祝おう。
明日には国民に伝え、順次祝賀の手配りをするように」
「は」
内務大臣らは命を受け早速準備に取りかかる。
「ジェイドには昇級を与えようかと思うんじゃが、宜しいかの?」
ゼーゼマンは同意を求めるが、ピオニーは一笑に付した。
「いいけど、断るんじゃねぇの?
あいつが喜ぶのは昇級でも何でもない」
長年友として過ごしてきたのだ。
今一番ジェイドが望むもの、それは自分にしかわからないだろう。
滅多に見せないポーカーフェイスが崩れたジェイドの表情を想像し、ピオニーは一人吹き出した。またよからぬ事を考えてるに違いないと、側にいたアスランはため息をつく。
「さて、俺も忙しくなるな」
早速取りかかろうと、ピオニーは玉座から降りた。
……向かう先は慌ただしく準備を計画するマゼンタのところだ。
────────
戦場に転がる、夥しい数の死体。赤く染まったブーツでそれを掻き分け歩く一人の軍人。近寄りがたい禍禍しい雰囲気に誰一人彼についていく者はいない。
「大佐は一人で何を?」
「ネクロマンサーは人体実験を再開したのか?」
「被験者になりそうな生きの良い死体を探してるって噂だぜ」
兵士らが兢々と遠くから見て噂するなか、ただ一人副官のマルコは全く違う思いでそれを見ていた。そして直ぐ様ジェイドに近寄る。
「大佐、私も手伝います」
「えぇ、お願いします」
黙々と何かを探す二人。やたら死体をブーツで避け地面を見るジェイドと、死体の髪や顔を見ていくマルコ。二人が探し当てる目的には食い違いがあったのかもしれない。しかしそれを指摘する者は誰もいない。恐れる兵士らの間でジェイドのネクロマンサーという二つ名がより浸透されていくだけだった。
「……ありました」
地面から何かの欠片を見つけたジェイドは拾い上げる。
「!?……っ、サラ……の手掛かりでは無いですね?」
「そちらを探してましたか?」
「いえ、そういう訳では……」
そう言うがマルコは少し残念そうに呟いた。そんな表情を見たジェイドは眼鏡のブリッジを正す。
「まぁ、……もう少しの間、探してみましょうか」
「は、はい!」
─────
安楽椅子に深く座り、眠っているのだろうか、静かに呼吸し瞼を閉じる老婦リタ・ローゼンは近付いてくる孫娘の気配を感じゆっくりと瞼を開けた。
「おばぁちゃん」
「……なんだ、もう行くのか?」
「うん、長く休ませてもらったね」
ユナは荷物をまとめて肩にかけていた。松葉杖を着かずとも歩けるが少しだけ腿に違和感は残る。しかし、いつまでもここでのんびりはしていられない。戻らねばならない、自分の居場所があるのだから。
「……休んだぶん、きっちり働けよ?」
「ふふ、わかってるよ。……じゃあ、行くね。ばぁちゃん」
「あぁ」
そして再び眠りにつこうと瞼を閉じるリタの呼吸が深くなっていく様子をしばらく見つめたあと、ユナは荷物を持ってそっと孤児院を出た。
まだ残っていたシンは机に向かって何かを書いている最中だったが、
彼もまたしばらくすると宮殿へ帰っていく予定だった。