TOA 3

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「遅くなって申し訳ございません!」

遅れを取り戻すべくエプロンを絞め直しながら自分の持ち場へと入るユナ。腕捲りは済んでいる。汚れる覚悟も必要な自分たちの仕事は食器類の片付けだ。
同じく緊張ぎみなメイド達がチラリとユナの方を見やる。リーダーが遅刻するなんてと瞳から非難が漂っていた。


「おかえりなさい。まぁだ大丈夫みたいよ、式典が長引いてるらしいから」

そう言ってリラックスするメイド達もいた。中には煙草を片手に呑気にしている者も。本来メイドが煙草を吸うなんて御法度なのだが彼女らは後片付け専門の日雇いメイド。今日のような忙しい日だけの為に集められた集団だ。付け焼き刃の作法を教えたところで時間の無駄だと理解していた。
勿論緊張感を持ち、一日であろうが真面目に働く者もいるのだが、前者とは自然と距離ができていた。

それらを束ねるのがユナの役目。


「そうなんですね、何時頃に終わるか聞いてます?」

「まぁまぁ、始まる前からそう硬くなっちゃ柔軟に動けないよ?リーダーがそんなんじゃダメダメ、こっち座りなよ」

換気扇の下で煙草を吹かしながら
余裕たっぷりに寛ぐ者達。その態度にどちらがリーダーシップをとるべきか改め直したユナは肩の力が抜けたようだった。

「確かにそうですね、ありがとうございます。隣失礼します」

煙たいのに抵抗はない。自然にそこに入ると彼女達の会話の中にも入っていった。



「こんな盛大なパーティは久しぶりだね。ピオニー陛下の即位一周年の時以来かな」

「あのときより浮かれてるよみんな。
今日はお酒の出が早いよ。覚悟しなきゃね」

「式典前から呑んで潰れてた貴族さんいたってさ」

会話を聞くと彼女らは毎度こうやって宮殿へ入り手伝ってきた経験者のようだ。ユナは勉強にもなると思い、興味深く聞いていた。そしてそんな姿を見て未経験者達も一緒に耳を傾ける。

「カーティス大佐は今回も昇進を断られたそうだね。ちょっと前に廊下ですれ違ったんだけど、澄ました顔してたさ」

「えー!会ったんですかっ!?」

急に顔を赤くして椅子から立ち上がるユナに煙草の灰を落としそうになるメイド。

「なぁに、あんたカーティス大佐が好きなのかい?あたしゃ苦手だよ」
「私は大好きです…会いたかったな」

苦手だという彼女には偶然会えてこんなに待ち焦がれる自分には会えないと言う、神様理不尽ですと言わんばかりに頬を膨らました。
そんな姿にクスクスと笑いがおこる。

「私もユナさんと同意ー!大佐の食べ方綺麗で好きだな、私」

「ありゃ殆ど食べてないからじゃないか!何が好きかわからん奴より好きなものは好きって分かりやすい陛下がいいなアタシは」


何故か話は好みの男性の話に。経験者も未経験者も混じりあって愉快に同じ会話を楽しんでいた。
年齢も意見も色々。普段ならこんな会話で盛り上がらないだろう顔ぶれだが、裏方の彼女達でさえも祝い事に浮き足だっていたのだ。

「私達も一緒にごはん食べてみたいもんだね。…って叶わないにしてもパーティの空気は吸ってみたいものさ」

「貴族が羨ましいねぇ…」

「えぇ、本当に」

それぞれが感慨深く頷くと、洗い場の扉が外からコンコンと叩かれた。


「そろそろパーティが始まるよ!お皿運んでくるから洗い物お願いね!」

「はい!」


その合図に、皆が立ちあがりそれぞれの準備を始める。
それぞれの顔つきが変わる。初めての者も慣れた者も余裕なく忙しくなるのは理解していた。

「頼むよ、リーダー!」

さきほどの会話で打ち解けたばかりのメイド達がユナの背中を優しくたたく。彼女達が自分を仲間に招き入れてくれた。
嬉しいし、それでいて身の引き締まる思い。
程よい緊張が心地好い。





──サラさん、ジェイドさん、見えないところですが私はここで頑張ります──


与えられた職務を全うしたい。ようやく心からそう思えた。


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