TOA 1
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──「ご満足いただけましたか?」
「えぇ、お茶までいただいてすみません。ご馳走さまでした」
10歳以上も離れたエドガーとアスランが表面上はにこやかだが対峙していた。
「私もユナを探しているんですよ。もう数日で嫁になる女性ですから心配でなりません」
「その発言に嘘、偽りは無いと断言できますか?
こちらは皇帝の命を受けて探していますからね」
「さすが、お若いのに手厳しくていらっしゃいますね。アスラン・フリングス将軍、ですが若さ故にご存知では無いのでしょうか。
結婚前というものはやたら心が乱れ、穏やかではいられぬものですよ。
女は逃げたくなるものであり、男は一層捕まえておきたくなるものです。
逃げられた私を隠したと勘違いされ、罰する事ができるのならどうぞ罰して下さい」
「……わかりました」
昼の休憩の間にわざと突然の訪問を試みた。
屋敷の中まで入って探したがやはり見つからず、しかもエドガーに歳の差で侮辱される羽目になりアスランは珍しく憤慨していた。
(何が罰して下さい、だ。白々しい……)
他をあたる為に屋敷を出ると、腕時計を見た。
そして宮殿とは反対方向へ歩いた。
「ユナ様お似合いですよ!」
「アハハ、本当ですか?なんだか申し訳無いけど。でも内心楽しんでます」
「ふふ、ユナ様ったら。しばらくお貸し致しますよ。お外へ出られないのなら宜しいでしょう」
「本当?嬉しい!」
修道院で暮らす女達とすっかり打ち解けたユナは仕事の合間に教団の制服を着せてもらったりして遊んでいた。
「あ、休憩も終るわ。では、それぞれ持ち場へ行きましょう」
ユナは庭の落葉掃除に出た。塀に囲まれているので外からはわざと覗かないと見えない場所である。
塀の外は教会の入口だ。預言を聞き終えた人々の会話を耳にしながら掃除した。
(預言って、不幸な事は言わないものなのかしら?皆、穏やかなのね。
別に興味が無いと思ってたけど、この名でも聞けるって知ると……気になるものね)
しばらく考えながら掃いていると 、ふいに聞き覚えのある声がした。
「エドガーさんが早朝ここに来られたようですけど、どんなお話を?」
気になって見つからないよう塀の外を覗くとアスランが教団の者に聞き込みをしていた。
(アスランさん!何故……)
「エドガーさんは式の打ち合わせをしに来ただけですよ」
「そうですか、ではユナさんという女性もご一緒では無かったですか」
「さ、さぁ。確か一人だったはず」
「お隠しになられると大変な事になりますよ?」
アスランは何かを察し、余裕の無い様子で厳しく追及した。
ユナは世話になっている教団の者達に迷惑がかかると慌てて声をかけた。
「アスランさん、やめて!私ならここにいます」
「ユナさん!何故こんな場所に……それにその格好!」
背の高いアスランは塀を隔てた向こうにいるユナを見つけた。
「私の意思でここにいさせてもらっているの!だからここの人達に迷惑をかけないで……お願いします」
「孤児院の皆さま心配していますよ。もちろん、陛下も。
私と一緒に来てください。お隠れになりたいのなら宮殿へ参りましょう」
ユナは一瞬何か言いたげだが言葉を飲み込んで一呼吸置いた。
「……っ、……孤児院の皆には平気って伝えて下さい。そして陛下には……どうか、内緒にして下さいませんか?」
「できません。私が陛下に支えている身なのをご存知でしょう?」
今にも泣きそうなユナを見てアスランは眉を下げた。
「陛下の為にも私は宮殿には参れません。それでも無理に連れて行くのなら、短剣を持参して行きましょう」
そう言って泣きながら去って行くが、アスランはその背中を追いかけられない心境にあった。
(短剣なんて……それを出されては陛下に会わせられる筈もないじゃないか)
アスランがピオニーを裏切る事は決してない。しかし傷つけたくない思いが葛藤を生んだ。