TOA 1

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「アスラン!届いた!やっときたぞ!」

アスラン・フリングスの執務室がある軍部まで供の者を振り切って走ってきたピオニーは肩で息をしていた。

「陛下大丈夫ですか?お呼びいただければ私の方から向かいましたのに」

「はぁ、だって、びっくりするような内容なんだよ」

ピオニーは両手を膝につき、しばらく呼吸を整えた。

「見ろ!これ」


ピオニーから差し出された紙を受け取るが、中身は報告書ではなく毛髪から採取された血縁の鑑定書だった。

勿論、メイジャー家のだ。


「ど、どうしてこんな結果なんでしょう?」

アスランは予想していた結果が外れ、動揺した。



「あぁ、正真正銘、血の繋がった兄弟じゃないか!」


「エドガーにとってユナは紛れもない姪ですよ?兄の血を受け継ぐ子です。
……結婚できるなんてあり得ません!」


「ユナは血が繋がってないと嘘をつかれていたという事か?……どうしても結婚するために、嘘を?」

「……いや、エドガーが知らない可能性もあります」

「あいつが!?……そんなことあるか?」


エドガーとここ数週間繰り広げられてきた知謀戦は彼が賢い人間であることを証明していた。
実際に対峙した二人だからこそわかるのだ。

彼にこんな重要な事を隠しきれるのだろうか。

だとすると、ユナに偽ったのだろうと安易に想像できた。
おそらく、ユナに結婚を納得させる為に。


常人の倫理をかなり逸脱したその行動に心の底から気味の悪さを感じた。


「ないよな。……ありえないぜ」

「えぇ」

「で、この鑑定書を見せて式を潰せばOKって事か?」

「本人の了承を得てない勝手に判定したものですから、少し心許ないですね。
あちらは弁護士がついています。信憑性が無いことを追及されるでしょう」


「だとしたら、もう少し証拠集めが必要か」

ピオニーはチラリと壁掛け時計を目にした。
針はどちらも天辺を指そうとしている。もうすぐ日付が変わる時刻だ。


「俺はリタのところへ行く。

お前はメイジャーの元へ行け!」

「え、待って下さい。彼等に何を聞けと?」

ピオニーは焦る様子だった。


「直接聞くんだよ!血縁があったかないか!
もしも口をわらなければ奥の手があるから心配はいらない。

とりあえず俺は今から行く。じゃあな!」
そう言うといつもの地下通路へ向かった。



「……まず、口をわらないでしょう。無茶すぎますよ、陛下」

アスランは額に手をあて困った。しかし残された日にちからするとその真っ正面から聞くこと以外他に手立が無いこともよくわかっていた。


(……奥の手ってなんでしょうか)





地下通路を足早に抜け、向かった孤児院では勿論ユナの姿は無い。
しかしそれに関して何かを思う暇はないと、真っ直ぐリタの私室へ入った。

リタが元気だったとしても普通に寝ているだろう夜中の時間だ。
ピオニーは一生懸命呼び続けるが、
起きるわけはなかった。



「ちくしょう、そう易々といかねぇか」


せっかく解決の糸口が見つかったと思えば、しかしそれをうまく活かせない苛立ちが募るばかりだった。

残された日はあと二日。
三日後には自分も参列する予定の結婚式だ。
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