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「ユナさん、これをジェイド様から預かっております。
あと、明日は一日お休みの日に当てられるようにと言付かっておりますよ」
「私、居候させてもらってる身なので、受け取れません!」
執事長のフィリップから手渡されたのは『御給料』と書かれた白い封筒で、 中身が何であろうと自分はもらえないと拒否した。
しかも、フィリップが休みなく働いている所に自分だけ休みを与えられては申し訳ない。
頑なに受け取れないと掌をフィリップに見せるユナだったが、執事長は一枚上手だった。
「ユナさん、こういう有り難いものは素直に受け取るのが仕える身としての正しい行動ですよ」
「う……」
そう言われては素直に受けとるしかなくなる。
普段の指導に厳しさは無いが、時おり見せるフィリップの頑固さは全てジェイドに尽くそうとしての行動なのだ。
(……そうよね、私が受け取らなければジェイドさんに失礼だし、それにフィリップさんにも迷惑がかかっちゃうか)
「では、ありがたく頂戴致します」
「はい。お礼は後日、ジェイド様
が帰って来た時にでもお伝えしましょう」
「……あの、明日は忙い日では無かったですか?急遽私がいなくても大丈夫ですか?」
フィリップは少しだけ考えてから、ニッコリと笑って返事をした。
「何も心配することないように、と。ジェイド様がおっしゃってましたよ」
「……そうですか。では、お言葉に甘えます」
その時、一瞬だけフィリップの困った表情を見た気がしたが、それは自分がしつこい為だろうと思って深くは考えず引き下がった。
「お礼はまた後日か。……いつ会えるんだろう」
封筒をしまいに自室へ帰るとため息と共に独り言が口から漏れた。
昨夜から今朝までここにいてくれたのに。
しっかりとアイロンがかけられた軍服の上着を来て颯爽と出ていったジェイドを思い出すとまた寂しさが募った。
「やだ……なんか、変なの」
仮の主従関係であるのに、何故だか無性にジェイドを求める自分の感情を不思議に思った。
(寂しすぎて頭おかしくなっちゃったかな?
……そうだ、明日は孤児院に帰っておもいっきり子供達と遊ぼう!)
童心に帰ってストレス発散するのだ
と、心に決めると頬を一つ叩いて勢いよく扉を開けた。
休みの前日になると張り切るなんてやっぱり子供みたいだけど、張り切って悪い事なんかないよね、と自分に言い聞かせる事にして。
「ユナさん、貴女にお客様ですよ」
「は〜〜い」
カーティス家の館に来客は珍しくもないが、しかし自分の客とは珍しい。
二階を掃除していたが、箒を置いてすぐに玄関エントランスへ向かった。
「や!メイド服姿を見に来たよ!」
「御無沙汰しております」
二人の姿を確認できると自分でもみるみる顔が綻ぶのがわかった。
「陛下!アスランさん!」
ピオニーは直ぐに抱きしめたい気持ちを抑え、咳ばらいしてから精一杯真顔を作った。
「可愛いよ、今すぐ俺の元へ来てほしいくらい」
「アハハ!それは無理ですけどありがとうございます!」
「……」
天然娘の無邪気な返しを食らったピオニーに、クスクスと笑うアスラン。
「あぁ、ヤダヤダ。これだから天然さんは怖いや。
もー、お子様にはお土産あげる。
はい、ちょっと頭下げて」
「ん?何ですか、これ」
突然頭につけられたカチューシャには犬のような三角の耳がついていた。
「ジェイドがさ、子犬のように自分を待ってるって言うもんだから。つい買っちゃった!」
「犬!?そんなこと言われてるんですかー、私!?
ひどいーー!」
勢いよくカチューシャを取り外すと、赤面しながらピオニーを睨んだ。
「いや待て、俺じゃない!ジェイドだと言ったろう?」
「……謝られた方が良いのでは?」
「う、ごめんユナ」
騒々しい三人を他所に黙々とお茶の準備を進めるフィリップに気づき、ユナは慌てて二人を広間へ案内した。
「すみません、どうぞこちらへお上がり下さいませ。」
「お邪魔しま〜す」
「突然の訪問申し訳ありません」