TOA 2

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宮殿に帰って公務を適当に済ませば、ピオニーはやはりジェイドの執務室に忍びこんだ。



「今日おまえんち行ったから。ユナのメイド服、やっぱり俺がデザインして正解だったろ?」

「はぁ、そうですか」

案の定まともに相手をしてもらえないが、気にせずピオニーは喋り続ける。


「お前、明日はユナを休みにしたってな?
なんでまた明日なんだよ、わざとか?」

「疲れが出てるようだから、ですよ。明日が何の日だろうと関係ありません」

ピオニーの質問に即答で返しているがジェイドの目はずっと卓上の資料だ。


「おまえさぁ、そういうのわざとやってるわけ?」


「私の顔を見ればユナの話ばかり。こうなるのが嫌で反対したんですよ!

女にうつつを抜かしていると寝首を掻かれますよ?ご存知でしょう、謀反の噂!」


いい加減うざったいと言わんばかり、ついに声を荒げた。


「謀反の噂なんかもう慣れっこでね。潰しても潰しても出てくるもんさ。

俺はそんなことより、身近にいる人の幸せを考える方がよっぽど重要だな」



「……はぁ」

能天気な皇帝に対してため息をつかずにはいられないジェイド。
自分の命の危険よりも他人を驚かす事の方が重要らしい。



ジェイドは観念したのか、右手に持っていたペンを置いた。

「それに、謀反なんぞお前がパパっと
解決してくれんだろ!?」


「ピオニー……」

ジェイドに久しぶりにファーストネームで呼ばれさすがのピオニーも肩をびくりと上げた。



「ちょっと最近私に頼りすぎでは?」


「それはどういう意味だジェイド。
オーバーワークだなんて弱音お前らしくないぜ」

珍しくいつもの口喧嘩とは違う雰囲気なのを察してついピオニーも真剣な顔つきになった。
熱でもあるのかと、ジェイドの額に手を伸ばす。


それが茶化されているように思ったジェイドはピオニーの手を払った。

「違いますよ、私を信用しすぎではないですか?という意味です!」

「お前が謀反人とでも言うのか?
っはは、笑えるな」

はねのけられた右手をひらひらと振ってピオニーは笑った。


「その件だけとは限りませんよ?」

ジェイドの右手には先程までなかったはずの
槍がギラリと光る。コンタミネーション現象によって簡単に出された武器は
仕舞う動作もまた、彼にとっては一瞬だ。

つまり、暗殺も簡単ということ。


しかしピオニーの親友を見つめる目は変わらない。
先程拒否されたばかりの行為を今度は確実にやってのけた。



「やっぱ熱でもあるんじゃねぇか?」

逆に熱すぎるくらいのピオニーの掌が冷たいジェイドの額を捉えた。



「……。まったくいつまで歳下扱いしてくれるんでしょうかね」


「おぉ、ほんとだ。日付が変わったな。

……誕生日おめでとう、ジェイド」



「……」



ジェイドは一瞬で槍を右手に仕舞うと、無言で再びペンを握った。


(オーバーワークと言われればそうかもしれませんね。……信用されすぎるのは辛い事です)


ジェイドの頭の中にはユナの笑顔が浮かんでいた。
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